DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 1.0

僕は、あの時何も知らなかった。父さんがいなくなったことも、母さんや妹と別れたことも、僕は何も知らなかったんだ…。
何故、天上(てんじょう)かいむがこうなってしまったのか、何一つ…

DreamPresenter side of Kaimu Tenjo Volume 1
chapter 1.0 :クリスマスプレゼント:

"ジリリリリ…プチン"
「あ、そうか。もう今日から冬休みなんだったっけ…。」
昨日の晩に今まで通りにかけておいた目覚ましを止め、まだ思うように開かないまぶたをこすった。「折角の休みだし、このまま二度寝してもいいかもしれない。」という気持ちと、「折角の冬休み初日を二度寝だけで済ましてしまうのも勿体ない。」という気持ちの葛藤を布団の中でしばらくした後、結局、僕はベットから出てカーテンを開いた。
「…正解かな。」
僕の選択は正しかったようだ。カーテンを開けた先には、日光とともに普段は見ない景色が広がっていた。
「カーテンを開けるとそこは、雪国…なんてね。今年のクリスマスは、ホワイトクリスマスかぁ…。」
今年で17になるが、この年になっても銀世界には感動するものだ。特に、今日がクリスマスならなおさらだ。特に予定はないけれど…。とにかく、非日常な雪の積もった世界を見て、僕の眠気は一気に覚めた。
「折角気分よく起きられたんだから、外にでも出ないと損かな。」
彼女もいないのに、一人で寒い外に出て行くのは馬鹿らしかったけれど、折角のいい目覚めをしたんだから、いい気分のまま冬休みの初日を過ごしたい。このまま家にいても、独り身を嘆いて寂しくなるだけだ。僕はとりあえず着替えて外に出てみようと思った。特にすることも思いつかないが、久しぶりの散歩も悪くない。僕は、買い置きの菓子パンを一つつまみ、牛乳を一杯さらっと飲むと、いつも着ている服に着替えて、そして、
「いってきます…。」
出かける時に発する当然の台詞を口にした。

"当然"返事はない。訂正すれば、僕にとって"当然"返事は返ってこない。そう、これは、いつも通りのことだ。僕には家族がいないんだから…。
物心ついてすぐに父さんが突然、家族をおいて失踪、その後しばらく、母さんは女手一つで僕と妹を養ってくれていたが、家計の都合上で家族全員を養っていけなくなり、僕は親戚おばのところに預けられた。僕が高校生になって、バイトで自分の学費や生活費も返す事が出来るようになると分かると、僕は母さんらとまた一緒に暮らそうと、おばの家を出、元の家に帰った。しかし、家はそこにあるのにも関わらず、その家に家族の姿は無かった。始めは、まさか夜逃げとも思ったが、調べていくとそうでもない。その家のローンは払いきられており、売りにも出されていない状態だった。僕は、いつの間にか家族に捨てられていた。何も分からないまま。

その時から、僕は、おばに「家族がいなかった事」を内緒で、その家に住みこみ、どうしてこうなってしまったのかを知ろうと日々を過ごすようになった。どんな、形であっても自分がどうしてこうなってしまったのかを知るために…。そして、今は何の手がかりも見いだせないまま、毎日「いってきます」と言っても返事のない生活を過ごしている。

「よし、じゃあいくか!」
"ズゴッ"
「ん?」
ドアが開かない。雪のせいだろうかと思ったが、普段雪の降らないこの場所でそんなに積もるはずがない。何かとてつもなく重いものがドアを塞いでいるらしい。僕は、とりあえず、押し出せるかを確認するために、もう一度ドアを力一杯押してみる
"ズゴッ"
が全く動かない。せっかくの素敵(?)な目覚めだったのに、いきなりやる気が失せてしまった。とはいっても、これを放置しておくわけにはいかないので、僕はわざわざそれをどけるために家の裏口から玄関前に回る。いったい何があったのか?その様子を確認して、僕は驚愕した。

「何だよ、これ…。」
目の前には縦・横・高さ2mはあろうかという大きな段ボール箱が我が物顔で居座っていた。段ボール箱の側面には、僕宛に"Merry Christmas!"とだけかかれたラベルが貼られていた。
「うさんくさい上に、どこから突っ込んでいいものか…。それにクリスマスプレゼントというにはあまりにも…。」
クリスマスにちなんだ悪戯にしてはあまりに難儀で難義な所行に僕はしばしの間呆気にとられてしまった。誰が、何のためにこんな事をしたのか…、それを知るためにも、とりあえず、この中のものが何かを確認しないといけない。外で確認してもいいが、寒い冬空の下、男一人で段ボールと格闘したくはない。僕は、この玄関からは入りきらない荷物をベランダに持って行き窓を外してそこから入れた。時間は予想以上にかかり1時間以上もかかった。こんなことなら、外であけた方がよかったと思いつつ、暖房をつけた部屋の中でゆっくり息を整えながら、例のダンボール箱を開けた。

段ボールの中から姿を現したのは、球。そうそれは白い球だった。美しく、傷一つないまるで真珠のような白い球。それが、2m立方の段ボール箱の中にぴったり入っていた。白くて大きな球状のものということは外見から分かるが、それが何のために使われるものなのか外からは一切分からない。段ボールは非常に重たかった事から、ただのボールと言うわけでもなさそうだった。
「これは…一体」
とりあえず、その白い球体を触ってみたりいろいろいじってみたりするが反応はない。触った感触から、それは金属であり何かの機械らしい事は分かったが、それだけだった。これは困ったとため息をつくと、段ボールの底の方にND(ナノディスク)があるのに気づいた。NDをプレーヤーに入れて中身を確認してみる。僕は、思わず息をのんだ。当たり前だ、プレイヤーをつけて表示された音声ファイルのタイトルには、
"From 天上海山(てんじょう かいざん)"
今まで、知りたかったけれど何の手がかりも得る事が出来なかった、僕が、この家に一人で住む事になった最大の原因となった人物の名前がそこにあったのだ。
天上海山、僕の父さんの名前…。記憶の彼方で消えそうになっていた人の名前。
僕が驚きを隠せないまま、NDは進んでいった。どこか懐かしい、聞いた事のある声がプレイヤーから流れてきた。

「久しぶりだな…、かいむ。まず、今頃になってこんなことをすることを詫びたい。本当にすまなかった。これが届く頃には俺はもう、このゲームの世界に入っているだろう。そう、この白い球がそうだ。何を言ってるか分からないだろうが、簡単に言うとこれは肉体ごとゲームの世界へと自分を転送する転送装置なんだ。嘘じゃない。大まじめでこんなことを言うメリットなんてないだろう。…そしてここからが大事な話だ。俺はこのゲームの中にいる。…かいむは俺がどうなったかをどう聞かされているかは知らないが、俺はこのゲームの中にいる。…そう、お前がこれからどうするかを決めて欲しい。ゲームの中で俺とともに暮らすか、リアルの世界でそのまま暮らすか。こんなことを今更聞くのは、俺がこのゲームに入るときにはお前は小さかったから。だから自分で結論を出せるこの時にこれを送った。どうするかはお前の意志にゆだねることにしたんだ。本当にすまない。いくらそんな理由を言ったところで、今頃になって…だよな。使い方は箱の底にあるマニュアルの中に書いてある。じゃあ、これが最後の言葉になるかもしれない、すまなかった。そして、さよならだ。」

簡潔というよりは非常に口下手で、必要な事と言いたい事をひたすら並べた言葉だった。正直、求めてきたものの割には感慨も感動も感じられない言葉だった。しかし、こんな言葉だったが、その内容は非常に重く、理解しがたい内容だった。
「父さんは、ゲームの中にいる?自分も…ゲームの中にいける?」
これは悪ふざけだと一蹴すれば良かったのかもしれない。でも、今の僕には、それは絶対に出来ない選択だった。なぜって、これが、嘘だったとしても初めて得る事が出来た、僕が、こんな人生を生きる事になった理由を解明する手がかりだったから。人は、こんな情報を信じてしまう自分を見れば笑うかもしれない。でも、このNDの内容を聞き終えた瞬間、僕の中で既に何かが芽生えているのが分かった。この時、既に、僕は何の迷いも無かった。

「ゲーム?全然意味が分からない。でも、行ってやる。このために、このために、今までずっと馬鹿な事をしてきたんだから!!」
僕は隣にある巨大な転送装置に目をむけた。そして、箱の底にあった使用マニュアルを手に取り食いいるように読んだ。
「絶対、絶対、知ってやる。今までのことを知るためにも、この世界に行ってやる。」
12月25日に望んでいながらも、迷惑なプレゼントをもらった僕は、狂いだした人生の全てを知るために、狂った人生に向かうだろう選択をした。

"EGS解放"
気づいたときにはその文字が目の前で点滅していた。マニュアル通りに白い球体を起動させ、気づけばマニュアルに書いてある最後のページに達していた。そして、なんのためらいも無いまま、僕は白い球体の中に入り、いかにも怪しいヘルメットをかぶりスイッチを押した。全ての作業は終了した。
"EGS解放"
白い球体の中にいる僕は目の前の緑色に光る文字を見つめた。一瞬ぼんやりしたその時、目の前にあった文字が一瞬にしてずれた。
(意識が薄れる!?)
そう気づいたときにはもうリアルの世界に意識はなかった。

「…何してたんだっけ…」

意識を取り戻した時、僕は目の前に広がる青空を眺めて草原の中に寝っころがっていた。今いるこのことが、リアルと夢との区別がつかなかった。今自分は何処にいるのか、さっきまで何処にいたのかさえも分からなかった。明らかに混乱していた。今、自分の周りにある記憶の道を辿って行ってみても、それが何処からが夢で現実だったのかは曖昧になる。そして今のこの世界が夢かと思っても、全てが現実と同じだった。今まで見てきた風景と目の前の物が違ってしまっていても、雰囲気と言うか、感じが全て同じだった。
「これが、ゲーム?もう一つの世界なのか?」
僕は冷静になりきれないまま、体を起こし、ただ立ち尽くしていた。
その時、僕の後ろから二つの声が聞こえた。

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