DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 10.1

chapter10-1:予感:

今日は、8月31日、現実世界では夏休みの宿題に追われ、また夏休みの最後の日と言うのもあいまって、ある意味、夏休み中最悪の日なのではないだろうか。事実、僕は今の今までそう考えていた、宿題は先に終わらせる主義なので、追われてはいなかったものの、せっかくの長期休暇がこの日で終わると思うと、嫌な日だと思っていた。現実世界では、友達と集まっては馬鹿騒ぎをして、毎日が楽しかった。だからこそ、友達と遠出して馬鹿騒ぎ出来なくなるのは憂鬱だったのだ。

しかし、このゲームの中の世界では、その理論は通じないようだ。8月31日に夏祭りを持っていくことによって、夏休みの最後の日に、テンションを最高潮まで持っていける。まぁ、宿題を終えていない人は親にだしてもらえず、最悪のテンションで夏を終えることになるのだろうが。それにしても、この夏祭りはとてもいい付加価値を含んだ良い行事のように思った。

この世界に来てから、僕が楽しいと思えるようなことはあまり無かったので、このような日頃の退屈をまぎらわせられるような行事は願っても無いことだった。そういった意味では舞華にはかなり感謝していた。

でも、そうそう、物事は良いようには進まないわけで。

「兄さん、どうですか?変じゃないですか?」
そういって、舞華が照れながら今日着ていく予定の浴衣を僕に見せて尋ねてきた。
「いいと思いますよ。似合ってます。」
そうとしか答えようの無い僕は、少し苦笑いして答える。でも、僕が言った言葉は決してお世辞ではなかった。群青をベースにし、至る所に色とりどりの花火が散りばめられた浴衣を着た舞華は、見とれてしまうくらいに綺麗だった。舞華のおしとやかさが、浴衣によって更に引き立てられ、とても大人っぽく、綺麗に見えた。
「ふふ、お世辞をありがとうございます。」
「お世辞じゃないですよ。」
「それなら、もっとありがとうございます。」
舞華はいつもよりテンションが高かった。当たり前だ。今日は、大きな夏祭りなんだから。お祭りで気分が高調しないのはおかしい。そもそも、彼女から誘ったのだから、人混みが嫌いと言うわけでもないだろう。って、何を分析みたいなことをしてるんだか。
「今日は楽しみですね。」
「はい、兄さんが来てくれるとは思ってなかったです。」
「どうしてです?僕は暇で暇で、退屈で死にそうでしたよ。」
「あはは、兄さんは学校無いですもんね。でも、兄さん、この世界にあまり興味無さそうだったので、この世界での馴れ合いみたいなものは嫌いなのかと。」
「そんなことないですよ、帰る宛が無い以上、ここで生活するしかないですしね。生活する以上は、楽しく過ごしたいじゃないですか。」
「そうですね、でも、それじゃあ、元の世界に戻る方法が見つかったら、兄さんは…」
そう言うと、舞華は少し寂しそうな顔をした。そうだ、元の世界に戻れるなら、すぐにでも元の世界に戻りたい。この世界はあくまでゲームで僕の前にいる優しい妹もNPC(ノンプレーヤーキャラクタ)なのだから…。
「…。」
「あ、ごめんなさい。お兄さんが出来たのに、すぐいなくなってしまうかと思うと少し残念で。」
舞華は、つまらない質問をしたとはにかんだ。全く、どうしてこの世界のキャラクターはこんなにも…。

僕は、何とも言えず、ただ沈黙していた。その沈黙は一瞬のものだったが。

"コツ!"
「痛っ!」
突然後ろから、雑誌を丸めたような物で頭を小突かれた。僕が、ため息まじりに後ろに振り返ると、案の定、そこには美良が丸められた「夢見ヶ丘るるぷ」と書かれた雑誌を持って立っていた。
「はい、ラブラブして無いで、ここから出て行ってくださ〜い。」
「美良!兄さんに対してその態度はないでしょ!それにラブラブなんてしてません!!」
舞華は顔を真っ赤にして美良に反論した。それに対して、美良はやれやれといった感じで舞華を見た。
「はいはい、分かった分かった。でも、とりあえず、こいつをどこかにやってよ。私も、着替えるんだから。」
「全く…。兄さん、すいませんが、そういうことなので。とりあえず、玄関で待っていて下さい。すぐに私もいきますから。」
僕が頷くと、美良が明らかに不機嫌そうな顔で、僕らを見てきた。
「こいつもくんの?」
「いいじゃない、美良。大勢の方が祭りも楽しいじゃない。」
「私は、ごめんよ。せっかくの夏祭りなのに、こいつの顔見るのなんて絶対嫌。そもそも、あの白馬の王子様はどうしたのよ?こんな絶好の機会、あいつなら逃さないでしょ?」
「何か凄い美術展に入れるチケットをもらったんだけど、その日付が今日だったみたいで。」
「相変わらず芸術家してるわねぇ、…泣いてたでしょ?」
「こらこら、彼に失礼でしょ!残念そうだったけど。美術展はこれを逃したらいついけるか分からないからって。」
「はぁ、モテる女は良いわねぇ、舞華。余裕ですこと。」
「勝手に言ってなさい。」
「ほらほら、あんたはいつまでそこでぼーっとしてるの!さっさと出て行く!!」
「ちょ、ちょっと!出て行きますから!ハンガー投げないで下さいって!!」
あぁ、どうして姉妹でここまで違うのか、どうして美良が来たとたん、流れが悪くなるのか教えて欲しいものだった。僕は、仕方なく玄関に行くと、急いで舞華がごめんなさいと手を合わせてやってきた。
「本当にごめんなさい。兄さん。」
「いいですよ、もう慣れましたし。」
この返しもどうかと思ったが、僕は作り笑いしながらそう答えた。
「もう、行きましょうか?美良とは別行動になりそうですし。」
「はは、そうだね…。」
僕らは、そういって、夏祭りに二人で出かけた。

***

夏祭りは、僕の予想を大きく超えてかなり大規模な物だった。人混みは視界いっぱいに広がり、どこまで続いているか分からない。出店の数も相当な物で、これも視界に入る限り通路の両側を隙間無く埋め尽くしている。綿菓子、ベビーカステラ、りんご飴、金魚すくい、お面屋、射的…もう、数えきれないくらいの露店の数々がひしめき合っている。
「これは、凄い…」
僕は圧倒されてしまって、思わず口からそう出てきた。電車に乗って、僕らの家から少し田舎の方に来たので、夏祭りと言ってもせいぜい地域の自治会が開く小規模な物かと思っていたからだ。
「凄いでしょう?この辺りでは、夏にするお祭りがこれくらいしか無いんです。だから、この一つのお祭りが凄く盛り上がるんです。」
「いやぁ、でもこれは、回るの大変そうですね。」
「大丈夫ですよ。慣れるまでは大変かもしれませんけど。」
そういうと、舞華は悪戯っぽく笑った、かと思うと僕の手を取り、浴衣を着て下駄を履いているにもかかわらず、元気良く人混みをぬって進み始めた。
「ちょ、ちょっと!?舞華さん?」
「迷子になっちゃ駄目ですよ。迷子になったらさっきの入口で会いましょう。兄さん、携帯持ってないでしょう?」
「うん、あっちの世界で、忘れてきちゃってって、速いですよ舞華さん。」
舞華はとぼけたかのような顔をして、構わず人混みを進んでいく。
「私、お祭りが大好きなんです。子どもの頃からずっと、このお祭りでいっぱい遊んできました。それぞれどの店が一番いいかとか知ってるんですよ。兄さんも行きたいところがあったらいって下さいね案内しますから。」
舞華は自慢げだ。いつもの雰囲気、浴衣を着た雰囲気からは想像出来ないくらいに、ちっちゃな子どものようにはしゃいでいた。
「舞華さんが、こんなにお祭り好きなんて、イメージに無かったです。」
僕が自然な感想を述べると、舞華はアハハと笑って、足を止めた。
「私、これでも、昔は手の付けられないようなお転婆さんだったんですよ。特にこんなお祭りなんかだと本当に手をつけられなかったんです。例えばこことか。」

ここと言われてよく前を見ると、そこは、射的屋だった。いつの間にか、入口は人混みの彼方に消えていた。ぽけーっとする僕に舞華は不敵な笑みをみせ、店のおじさんに銃の注文をした。
「おじさん、一回します。」
「あ、姉ちゃんかぁ。ほら、5発300円ね。今年は手加減してくれよ姉ちゃん。まだ祭りは始まったばかりなんだから。」
「駄目ですよ。正々堂々と勝負しなきゃ。」
「あはは、困ったな。見た目はおしとやかになったのに、中身は昔のままだねぇ。あれ、舞華ちゃん、その後ろの兄ちゃんは?」
「あぁ、最近、ここに越して来た。私のお兄さんです。」
「そっか、お兄さんか、兄ちゃんはやってくかい?」
僕は、舞華と店のおじさんがあまりに仲良く会話をしている物だから思わず見入っていて、おじさんが僕に話をふってきたのも気づかなかった。露店の人と事務的な事以外で話をすることなんて無かったから、まさか、話しかけてくるとは思わなかったのだ。
「ほら、兄さん。どうします?」
「え、あぁ、やります。」
「はい、5発300円。兄ちゃんは、射的得意かい?」
「え、は、あまり、得意って言うほどしたことも無いし。」
「そうかい、なら舞華ちゃんのを見ときな、ありゃどこぞのスナイパーだから。」
「は、はぁ。」
僕は、コルク栓と銃を持ち、ぼーっと舞華を眺めた。
「兄さんに見られると緊張しますね。でも、やります。見てて下さいね。」
やりますって…、僕は大袈裟だと笑おうとしたとき、舞華の眼孔が鋭くなった。

"パコ カチャ パコ カチャ パコ カチャ パコ カチャ パコ"

それは、瞬く間の出来事だった。気づけば舞華の前にある標的は大きな物から小さな物まで全部射落としていた。5発中5発成功。息をする間も許さないほどの早業。弾を込めるのも手慣れていて、1秒とかからなかった。
「やっぱり、舞華ちゃんには負けるわ。今年は、舞華ちゃん用に的を少し前にしといたのになぁ。というか、前にしてあったのだけを全部落としちゃうなんて…気づいてたのかい?」
「はい。まぁ、そのぬいぐるみは落とせるか分からなかったですけど。」
「あぁ、まいったまいった。今年も舞華ちゃんの完勝だわ。」
「でも、今年は危なかったですよ。来年も楽しみにしてます。」
「来年は、どでかい重い物でも用意するかねぇ。」
「ふふ、今から楽しみです。」
正直、何なんだこの人はって感じだった。今までの舞華像が崩れて、スナイパーの称号を得た舞華が僕の前にいた。
「おい、兄ちゃん、間抜けな顔してないで、次は兄ちゃんの番だぞ!」
「え、はい…」
「兄さん、頑張って下さいね。」
いや、この期に及んで、僕がどうしようが、格好悪いじゃないか。
でも、兄として、それ以上に男としてあまりに無様な様は見せられない…。僕は少ない今までの経験を思い出す。コルク栓を銃口に詰め、まず銃口を見てみる。前に先が曲がっていて前々狙い通りにいかなかったことがある。この銃はそんなことは無い。良い銃だ。そりゃそうだ、この世界は悪質に騙すなんて事がないんだから。それなら安心である。銃のせいには出来なくはなったが。
「…やるしかない。」
一発目、とりあえず一つはとれないと面目が立たない。近くにある、キャラメル箱を狙う。

"パコッ"

「すごい!」
舞華が素直に喜んだ。僕の放ったコルク栓は、見事にキャラメル箱を射落とした。そういえば、この世界がある程度上手くいくように出来ているのなら、ある程度大物狙いでも上手くいくのではないか?僕はコルク栓をつめ直し、前の標的群を見回す、すると…
(あった。携帯ゲーム機…、これなら普通には倒れない。無理だったとしても仕方ないと言うことになるだろう。何だかせこい考えだけど…)
僕が、ゲーム機に向けて銃口を向けると、舞華が心配そうな顔をして僕に尋ねてきた。
「兄さん、もしかして、あのゲーム機を狙ってるんですか?あれはなかなかむずかしいですよ…」
これが、計算なのだ。というか、難しいって言い方は、あなたは射落とせる自信が多少あると言うことですか…。
「駄目もとで狙ってみますよ。」
僕は、舞華に微笑み返すと、標的に銃口を向ける。手が汗で湿りしまいにはべとべとになってくる。
(ええい、ままよ!)

"パコ"

箱にはあたったものの、微動だにしない。
「やっぱり、狙いを変えた方が…」
「やっぱりするからには大物を狙いたいじゃないですか。」
僕は舞華に聞こえないように深呼吸し、弾を詰め直す。今度は前よりも上の角の方を狙って撃つ。

"パコ"

今度は揺れるには揺れたが、それまで、全然倒れも落ちる要素も無い。僕はまた弾を詰め更に撃つ。

"パコ"

更にこめ、二連で撃つ。

"パコ"

今度は先ほど以上に、大きく揺れそして、その揺れによりだんだん奥の方に商品が進んでいく、もしかしてと思った。でもそれまでだった。
商品は倒れたが、落ちることは無かった。
「惜しかったな、兄ちゃん。」
「兄さん、惜しかったですね。」
「ちょっと、期待しましたけど、駄目でしたね。」
「ほら、兄ちゃん。これは餞別だよ!」
そういって、おじさんが僕が落としたキャラメル以外に、チューインガムを渡してくれた。おじさんは、今までの出店で見たこと無いくらい、愛想良く笑ってくれた。
「ありがとうございます。」
「いいんだよ。面白かったからな。それじゃ、舞華ちゃんも、また来年!」
来年か…。
「それじゃ、ありがとうございました。」
「はい、今度も楽しみにしてます。」
僕と舞華は、おじさんに会釈した後、またも舞華に服の袖を引っ張られ他の店に行く事になった。
 その時、さっきの射的の場所であのおじさんの声が微かに聞こえてきた。
「兄ちゃん凄いねぇ。まさかゲーム機落としちゃうなんて。その学ランはここら辺の校区の物じゃないけど、遠くから…」

「兄さん!今度は、どこに行きます?行くところが無いなら、たこ焼き食べにいきません?良いところ知ってるんです。」
「うん、ちょうど、お腹空いたし。いこうか。」
「はい!」
僕らは、これから深くなる祭りの中に飲み込まれていった。

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