DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 10.2

chapter10-2:予感:

祭りの熱は、更に加熱し、人の数もますます増えてきていた。むせ返るような暑さや人混みも、祭りの雰囲気に飲み込まれ心地よいくらいだ。出店のカラフルな電球が夜を照らし眩しいくらい、祭りと言う物はこうでなくてはと思わせる。とても、いい感じの祭りだった。

そんな大変な賑わいを見せる数々の出店の一点の前に僕らはいた。舞華に連れられてきたのはたこ焼き屋。この店も舞華は常連らしく、気さくに店の店主と話しかけて、ちゃっかり二舟、たこ焼きを持ってきていた。
「はい、兄さん。」
「あ、いいの?」
「はい、毎年買ってますから、サービスだって言ってもらえました。」
「そうか、本当に舞華さんって、祭り好きと言うか祭り慣れしていると言うか。」
「そうですか?でも、確かに自信はありますよ。お祭りは大好きです。皆で楽しく騒ぐのが好きなんですよ。」
「やっぱりイメージと、違います。もっと一人でゆっくりするのが好きと思ってました。」
「私って結構、アクティブな性格ですよ。あ、兄さん、ここのたこ焼き、天かすが多くて、たこも2個入ってるんですよ!」
「へぇ、はふはふ、あふい!!」
「くすくす、一口で食べちゃうからですよ。男の人ってやっぱり、食べる時、豪快ですね。見てて、楽しいです。」
「そんなものなんですか?あぁ、熱かった。」
「そういうものです。兄さん、他に、何か食べたい物あります?熱々のベビーカステラ入れてくれるところとか、綿菓子が少し大きいところとか、いっぱい知ってますよ。」
「う〜ん、僕は何でも良いです。舞華さんの好きなところにいってもらえれば、損はしなさそうですから。」
「そう言ってもらえると、調子に乗って全部回っちゃいますよ!」
「いいですよ。今日は付き合います。」
「よーし、じゃぁ!…。」

舞華がたこ焼きを持ったまま、他のところに行こうとすると、突然足を止めてある店をじっと眺めだした。
「どうしました?あ、お面屋ですか。昔は、戦隊ヒーローのお面をかぶってましたね。」
「そうですね。私も女性ヒロインのを買ってもらいました。でも、このお店少し変わってます…」
そう言うと、吸込まれるかのようにそのお面屋に歩み寄る。僕もついてそのお面屋にきた。
「…あ、これは…」
近くに来て気づいた。そのお面屋のお面は和紙かなんかの紙製の物を竹ひごで形作られた型に貼付け彩色していた。お面の内容もどこか対象年齢が上がっていて、ヒーローものと言うよりは動物をキャラクター化した物が多かった。舞華は興味津々でそれを眺めこみ、それらの作品に魅了されていた。
「素敵ですね。」
舞華は誰に言っているのかも分からないような感嘆の声を上げた。店主の初老の白髪まじりの男性もありのままに感動してもらえて照れているように見えた。舞華が、じっくり品定めしているのを見て、僕は店主に尋ねた。
「これ、皆手作りですか?」
「あぁ、まだまだ下手だけどねぇ。ちまちま作っては売ってるんだ。このお祭りは出店の規定とかが薄いからねぇ。」
そうだ、先ほどから思っていたことだが、ここのお祭りはどこかフリーマーケットを彷彿とさせるような感じがしていた。向こうの世界では、内容こそ差あれ、販売金額はどこも同じで、店も奇抜な客引きの努力をしない。というよりは、禁止されている感じがした。真偽は分からないが噂によると、出店を置く土地を借りる際になにかあるのだとか。そう考えるとこの世界は自由に出店をだし思い思いの店を作り上げている。値段は統一されているが、中身が面白いほどに違っていた。このお祭りが盛んになるのもこのためなのかもしれない。
「下手なんかじゃないですよ。とても素敵です。」
謙遜する店主に向かってシンッと見つめ舞華がきっぱりと否定した。店主はそれを聞いてますます照れる。
「本当にそんな大層なものなんかじゃないよ。」
謙遜ばかりの店主を見て、舞華は自分の一番気に入った物を手に取り、店主に言った。
「これ下さい。」
それは黒猫をキャラクター化したお面だった。
「ありがとう。でも本当に良いのかい?」
「店主さんがそんなだと良いものも曇ってしまいますよ。私はこれがとても気に入ったので、頂きます。500円ですね。はい。」
舞華にそう言われると、今まで照れていたおじさんがどこか吹っ切れたような顔をした。そして、声をだし、舞華の前で客引きをしてみせた。
「確かに、これじゃぁ、お面が可哀相だな。ありがとう、お嬢さん。勇気が出たよ。」
「いえいえ、事実を言っただけですよ。とても可愛くてこれが人目につかないのはもったいないですから。」
舞華はそう言うと店主にニコッと笑いかけて、今買った、お面を頭につけてみせた。顔は隠さず少しずらしてアクセサリのようにして。
「似合ってるよ。私が作っておいてこういうのもおかしいけどね。」
「そんな事無いですよ、舞華さん、似合ってます。」
僕も店主にそえるようにして付け足す。舞華は更に笑顔を重ね。満面の笑みで答えた。
「ありがとうございます。店主さん。兄さん。また、;来年も来ますね。楽しみにしてます。」
店主は手を振り答えた。
「兄さんごめんなさい。私だけ楽しんでしまって」
「いやいや。僕も楽しかったし、気にしないで。」
「それじゃ、行きましょうか。」
そういって、手を取られる。僕は妹とは言え女の子と手をつなぐことにいささか、気恥ずかしさを感じた。そういえば、さっきも手をつながれていた気が…。思い出すと、顔が真っ赤になってくる。
「どうしました?」
「いや、何でも無いよ。」
僕って情けない。

***

それから、舞華と一緒に一通り店を回った。舞華の行く店店はいつでもオプションとして、何かサービスしてくれた。どこの露店主も舞華だけでなく僕にも、とてもよくしてくれた。それがとても嬉しくて、僕もいつの間にか、店主に話しかけるようになっていた。こんな経験は今までに無い。ここがゲームの世界だからこんなことが出来るのだろうか?現実世界もこう話しかければ、よく返してくれるのだろうか?全員でないにしろ…。僕にとってこの夏祭りは、人(NPCとはいえど)との新しい付き合いについて学ぶ良い機会を得た気がした。

祭りはもう終盤、もう8時といったところ、人々は露店を回るのをやめ、祭りの中心地に向かって歩いていた。
「舞華さん。これは皆、どこに?」
「あぁ、もうすぐ花火が打ち上がるからですよ。皆、花火がよく見える場所を確保しようと、早めに移動してるんです。」
「僕らは、行かなくても良いんですか?」
僕がそう言うと、舞華は任せて下さいと言わんばかりにウインクをしてみせた。そして、また僕の手を取り、自信あり気に言った。
「秘密の場所があるんです。来て下さい。」
僕は、舞華の思うがままに手を引かれてついていくことにした。舞華は、皆とは逆方向に進んでいた。
「皆は神社の境内の方に集まるんです。花火を大きく見えるから皆集まるんでしょうけど、私は今向かってる方の景色のほうが良いと思って。」
「でも、なんだか、だんだん人が少なくなってきてません?」
「だから穴場なんですよ。少し、行くのが大変ですけどね。」
僕らは、境内の方から遠く離れ、人気の少ない神社の裏の方に回ってきていた。
「兄さん、ここからが大変なんです。」
舞華がそう言うと、僕の手を離し、浴衣を少し崩した。いきなり何をするのかと思ったら、舞華は舗装された道筋から右向け右し竹林になっている方を向いた。
「ちょっと、舞華さん!まさか!!?」
「見えにくくなってますけど、ここにはちゃんと道があるんですよ。この神社は数年前に新設されて山の麓におろされたんです。山の上じゃ、参拝する人が大変だし、少ないからって。でも、古い神社も潰したくはなかったので、神主さんは古い方の神社も山の上に残しているんです。そこへ通じる道がここなんです。山といっても、全然高くないですけどね。丘って感じです。」
「その古い方の神社の境内で見るってことですか?」
「もともと、この花火は古い神社でよく見えるように場所取りをしていましたから。ここの方がよく見えるんですよ。」
「これは、大変そうですね。」
僕は、今から登るはずの野道を見てぼやいた。
「くすくす、大変ですよ。行きましょう。」
元気に進んでいく舞華、彼女のアクティブぶりに関心さえしながら、気合いを入れ直し草の生えた道をずんずん進んでいった。

***

「はぁ、結構ありましたね。」
「ふぅ、ふふ、そうですね。」
頂上の神社の境内には誰もいなかった。皆、新しい方の神社に向かっているようだった。境内はぼろぼろとまではいかないが、見るからに古く使われていないようだった。肝試しに使うのにはもってこいだろう。
「雰囲気がありますねぇ。」
「えぇ、人も来ませんから、静かですしね。」
あはは、と二人笑った。その時、

"パァァン"

花火が上がった。大きな大きな花火だった。その大きな花火を皮切りに、大玉やススキ花火等代わる代わる花火が打ち上がり始める。
「すごい…綺麗ですねぇ。」
僕は、目の前で繰り広げられる夜空のショーにため息まじりに感想を述べた。
「…」
僕が、投げた感想に対して、何も返しが無いので舞華の方を見ると、舞華はボケーッと僕の方を見ていた。僕は、内心かなり驚いたが、僕が彼女の方を見てもボケーッとしていたので、僕も何も言えず彼女の方を見つめ返す形になった。
しばらくその形が続いた。
「舞華さん?」
舞華には返事が無い。放心状態と言うか、物思いに耽っているにも見えた。僕は、舞華を起こそうと、舞華の肩に手をかけようとした瞬間。

「こぉららぁぁぁ!!」

けたたましい怒鳴り声が僕らが登ってきたのと同じ道から発せられた。
思わず、僕は舞華から離れた。舞華も大爆音の怒号にようやく目を覚ましたようだった。
「あんた達は、一体何をしてるのかと思えば…」
彼女はピンク色に色とりどりの蝶が描かれた浴衣を着て、髪はさらさらな赤髪をポニーテールにしてくくっていた。その少女は、
「み、美良さん!!」
「あんたも、結構やるようになったじゃない!」
「いや、違うこれは誤解なんです!」
「そうよ、美良!兄さんは何にも。」
「別に何でも良いわよ、せっかくの花火なのに目の前でうっとおしいもの見せられたくなかっただけだから。」
そういうと、美良は僕らの事は無視して、花火を見始めた。
「ごめんなさい、兄さん。私ボーットしてしまって。」
「いいですよ。でも、美良さんもこの場所知ってたんですね。」
「…えぇ、ここは、実は人からの受け売りで。私が偉そうに案内しちゃいましたね。」
ハハハと舞華が笑う。
「ほらほら、そこひそひそ話しない!」
「そこまでいわなくても。」
「こんな特等席をあんたに知られちゃって気が立ってるの!話しかけないで。」
美良は思った以上に気が立っているようだった。そういわれると、僕は何も言えず、ただ黙り込むしか無かった。そんな僕を見てまた舞華が申し訳無さそうな顔をして謝ってくれた。
「すいません。本当に。」
「気にしないで下さい、さ、花火でもみましょうか。」
舞華の優しさは嬉しかったが、また喋ってると美良に何を言われるか分からなかったので、じっと無言で三人花火を見続けた。一つ打ち上がり消え。また一つ、また一つと打ち上がっていき。そして、とうとう、打ち上がらなくなった。流石に最後に景気良く凄い花火とまでは地域の祭りではいかなかった。最後のは確かに普通の花火よりもだいぶ大きめではあったが。
 花火が終わると、それまで、黙っていた舞華がすまなさそうな顔をしてうつむいてしまった。
「楽しかったですし、綺麗でした。」
「いえ、私は別に何も。」
「美良さんも、せっかくの特等席を邪魔してしまってすいませんでした。」
僕がいきなり謝ったことに驚いたのか、美良は少し動揺した後、そっぽを向いて、
「過ぎたことだから良いわよ、別に。さぁ、さっさと帰るわよ。明日からは学校なんだから。」
「分かってるわよ。兄さん、今日はありがとうございました。」
「感謝するのは僕の方ですよ。」
「あぁ、熱いなぁ、夏は本当に暑い熱い。」
何はともあれ、美良も怒ってないようだし、一段落ついたと思った。でも、ちがった。
 それはいきなりのことだった。

"ドォォォォォン"

いきなりの地響きとともに、後ろにあった神社の一部が崩れ落ちた。
「な、なんだ地震か!!?」
僕は、何が怒ったのか分からずに叫ぶ、彼女ら二人も同様、突然の事態に混乱していた。
地響きは少しの間続き、そしてまた少しするとまるで何も無かったかのように、消えた。
「こんな大きい地震なんて初めてです…。何かあったんでしょうか?」
舞華は恐る恐る、僕に尋ねる。勿論、僕の方が彼女らよりもここに来て日が浅いのだから分かるはずが無い。
「直下性のものかしら?」
「とにかく、また何か起こる前に帰った方が良さそうですね。」
僕の提案に、二人はこくりと頷いた。
山の麓までくると、そこは、まだ祭りの余韻に浸っている人でいっぱいだった。まるでさっきの地震についてまるで気にしないように、
「どうして…」
舞華がぼそりと呟いた。
「超常現象に巻き込まれちゃったかな、私達。」
と、美良がおふざけにいう。でも、その顔はどこか不安が混ざっていた。
「今は帰りましょう。ニュースで、何かやってるかもしれませんし。」

 僕らはそういって帰ったが、あとで放送されたニュースは僕にとって異常なものだった。確かに晩に地震があった。ただ、その地震の小規模度合い。一地区どころか、本当に一部の小さなものだった。彼女らはニュースを見て「やっぱり地震か」と言っていたが、これは…?

僕が熱心にニュースを見ていると父さんが、僕の肩に手をのせてきた。
「父さん!これは…」
「分かってる。分かってるから何も言うな。」
父さんはまさに苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。父さんもこの異常に気づいているようだった。そういえば…「この世界は、現実世界で忌み嫌われいるものは存在しない。」

美良達はもしかしたら知らないのではないか?本当の地震と言うものを…。
「大丈夫だ。」
父さんはそれだけ言って部屋から出た。何をするのかは分からないが、あの「大丈夫」にはかなりの重みがあった。根拠は無いけれど。

違和感が消えなかった。もしかしたら、何か違うんじゃないか。このゲームは何か…。空気が変わってしまう気がした。理想郷が変わるときが来たようなそんな感じが。

でも、僕はこれからどうしていけば良いかなんて分からなかったし、考えようともしなかった。ゲームの中に入った僕はヒーローなんかじゃない。ただの家族の一人の息子なんだ。それでも

僕は…

DreamPresenter side of Kaimu Tenjo Vol.1 END

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