DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 2.0

chapter2:最悪の出会い:

僕は声のする方に向き直った。すると、そこには二人の女性が歩いてきていた。一人は黒いリボンでそのしなやかな赤みがかった髪を束ねたポニーテールの活発そうな少女。もう一人は文学少女みたいな感じで大人しそうなまあるいふちの眼鏡をかけた黒髪の少女。見知らぬ人に何かを聞くというのは苦手な僕だったけど、とりあえずこの世界について聞かなきゃ何をするのにも困る。僕は二人に駆け寄って、とりあえず話をしようとした。普通に話をしようとしたはずだった。しかし、僕の思いと裏腹に僕の口はとんでもなく突拍子なく、意味不明の質問を投げかけていた。

「あ、あのいきなりですいません…。ここって、何なんですか?」
その時の僕は混乱していて、とりあえず今ある問題を解決しようと必死だった。それが逆効果だった。やっぱろ二人は変な顔をした。いや、二人に限ってのことではないだろう。こんな質問をして僕を変なヤツと考えない方がおかしい。そうだとしても赤髪ポニーテールの少女は見ず知らずとはいえ如実に嫌な顔をした。そして、
「何?新手のナンパ?」
低い声で僕にそうぶつけた。瞬時にこれは不味いと思った。でも文学少女はあんな問いかけにもあくまで冷静に聞き返してくれた。
「…どういうことですか?」
「いいのよ舞華(まいか)、こんなのはこういって足止めさせて気を引かせようとしてくるんだから。」
「美良(みら)!!」
「はいはい、わかりましたぁ…」
赤髪の少女は美良、眼鏡をかけた少女は舞華と言うらしい。美良は僕に対し明らかに不信感をおおあらわにしていたが、舞華のほうは僕の話を聞いてくれそうな感じがした。このとき、僕には舞華は聖母様のように見えた。彼女達の一連の会話をそわそわ聞いていると、舞華は僕に話すように促してきた。
「え、アノ…」
「大変なことが何かあったんでしょう?私達でよければどうぞ話して下さい。それとも、本当にナンパが目的ですか?」
そういって、舞華は笑いかけた。その笑顔に安心して僕は早速あらましを切り出そうとした。
「あの、僕は!!」

が、言いかけて考えた。僕はリアルからきた。信じてもらえるのだろうか?普通なら信じないというかこんな質問はしない。でもここはゲームの中だ、事情を話せば…でもこの世界の人にとってはここが現実なんだから考えれば考えるほどこんがらがっていく。
「どうかしましたか?」
いやここは、信じてもらえることを信じるしかない。
「僕は、現実世界から、このゲームの中にやってきたんです。だから、ここがどこなのか分からなくて…」

一瞬の沈黙…。信じてもらえることにかけた僕の賭けは、
「やっぱり変なヤツじゃない!!っていうかナンパよりたち悪いし!」
負けた。完敗。信じてもらえない上に確実に妄想少年だと思われただろう。むしろ電波系かもしれない。
「こんなのに構ってたら、こっちまで変になる。舞華さっさといくわよ!」
「ちょ、ちょっと美良!?」
二人が行ってしまう。何だかこのチャンスを逃すともうこの世界で何も分からなくなるような気がした。だから彼女達を追いかけようとした。気持ちだけ。気持ちだけ焦って体が上手く動かなかった僕はそれは見事に前のめりに倒れた。もうそれは見事に漫画でももう下手過ぎて使われないかもしれない見事なタイミングでそれは展開された。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
僕は美良を押し倒すような形になった。それはもう見事な事に…。混乱していた頭が更に混乱する。僕はただワタワタするしかなかった。
「あの、す、す、すいません!!!」

"ニコッ"
美良は笑っていた。しかし怒っていた。目が笑っていなかった。僕は鳥肌が一気にたった。思わず身構えたがそれも遅かった。

"ゴッ"

彼女の正拳がこれも見事にみぞおちに入った。意識が朦朧としてくる。女の割にかなりの力だ。このまま倒れてしまいそうだった。それなのに、

"ゴッ"

痛みが走ったが、どこを殴られたかは分からなかった。僕はもう既に気を失っていた。

***

気がついた時には、僕は家の中にいた。今まであったことが夢かと思った。でも、まぶたを開いて見えた天井は明らかに僕の見知っているいつものものじゃなかった。まだ、ぼんやりとした意識の中、見覚えのある顔が目の前に現れた。
「目が覚めたみたいね。全く…男なんだからアノくらいで気を失わないでよ。」
美良…だった。彼女はなんだかんだ言いながら介抱してくれていたらしい。介抱なんて、もう何年もしてもらったことがないので、妙に恥ずかしいのやら何ともいえない感じがした。でも、ただ…彼女はどこか…
「…んに似て…。」
「ん?何か言った?」
「えっ、えっと…何も。」
「んー。あんた、もうちょっとハキハキしなさいよね。そんなんだからよわちっいのよ!」
男として、何か言い返したかったが、何も言い返せなかった。実際のところ僕は自分自身を中途半端な人間と思っているくらいだから…。僕はいつでも流されながら生きてる、流され続けて生きている。とりたてて、運動がダメなわけでもない、勉学もそうだ。出来ることは出来る。ただ得意かと言われればそうでもない。一芸身を助くとよく言うが、そんな一芸に相当するような、取り柄がないのだ。喧嘩だってしたことないし、だからといって体育以外の武術の経験なんて…。流れに必要のないものは置いてきてしまった。流れていれば、それらは必要がなかったから…。でも、流れている自分自身は嫌いだった。嫌いだったけど変えようともせず流れていた。そう、自分は、もっと他に考えないと行けない事がある。僕が、捨てられた理由を探すのに忙しくて、何もかも本気になれきれないんだと言い訳して…。そんな、自分が好きではなかった。

だからこそ、ようやく父の手がかりを見つけて、今度こそ自分から流れを変えて踏み出してみようと、そういった意味も含めて意気込んだのだ。しかし、もう挫折気味だ。全くもって情けない。僕がそんなことを考えながら何も言わないでいると美良が僕の顔を見て言ってきた。
「はぁ、イライラするなぁ…。弱いんなら強くなればいいだけじゃない…それしかないんだから…」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。でも、その言葉を発していたときの美良の顔がどことなく悲しげに見えたのは、気のせいだったのだろうか。そう思ったのもつかの間、

"ガチャ!!"

突然部屋の扉が開いて一人の男が入ってきた。
「美良、意識は戻ったか!!?」
その声を、その姿を見て僕は戦慄した。
「と、父さ…ん?」
ずっと昔に消えた男、それでもずっと覚えていた、声も顔もずっと覚えていた男が前にいた。ほんのさっき挫折しかけた、会いたかった、ずっと問いただしたかったその男が、こんなあっけなく目の前にいた。僕が「父さん」と言ったのを聞いて、父さんは目をまん丸にしてこちらを見た。そして僕の肩をグッと掴んだ。
「やっぱり、やっぱりかいむなんだな!!?」
父さんが僕の前に来て僕の肩を揺すぶった。

なんだろう、この異様な、怒りにもにた感覚は…。僕は、あっけなさと今まで溜め込んできた気持ちとが混じり合って、思考が混濁しながらも、父さんにはっきりと自分の事を伝えた。
「うん…。僕は天上かいむだ。」
「…。ありがとう、本当にありがとう。」
目の前にいる僕が自分の息子だと再確認して、父さんは俺を抱きしめた。涙こそ流れていなかったが、その目は潤んで見えた。
「な、なんなの…?」
美良はいきなりの二人の抱擁にただ口をぽかんと開けてみているだけだった。
この場の誰にとっても、その光景は異様だったに違いない。

僕は、今日と言う日のクリスマスプレゼント程、印象に残るものは無いと思った。ただ、僕にとってのクリスマスプレゼントは、あの機械なのか、両親に繋がる情報だったのか、このゲームの世界なのか、それとも、両親自体なのか、全く分からないままだった。

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