DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 4.0

chapter4 : 彼がここにいること:

僕がゲームの世界に入って三日、この三日は僕にとって、とても濃い三日だった。ゲームの中の世界はとても精巧に作られていて現実とほぼ変わりない。こっちが現実だと思ってしまうくらい。でも、当たり前ではあるけれどここは現実ではなかった。現実世界と仮想世界のちょっとした差、ここで生活するためにはこれを学ばないといけなかった。勿論、ここで生活し続けるつもりは毛頭なかったのだけれど…。

数ある違いの中で一番大きな違いは、時間のズレだった。リアルでは12月25日だったけれど、ゲームの中ではその年の7月25日、夏休み真っただ中なのである。何とも調子が狂うことだ。しかも、父さん曰く、
「このゲームの世界の時間はゲーム開始当初、設定の確立のため止まっていたんだ。初めて現実世界の物をゲーム世界に入れなじませるのにはそれなりの時間が必要だったらしい。だから開始当初からこの世界にいた俺は年をしばらくとらないままこの世界を過ごしていた。ただ、ややこしいのは、美良や舞華、ゲームの設定として必要とされた存在に関しては成長が進むんだ。要するに、最初から俺がここで生まれて、現実世界で結婚するくらいで結婚し、子どもも同じくらいの年になる。だから、美華と俺の年はそう変わらないし、美良、舞華はお前の一つ下の高校1年生になる。因に二人は二卵性の双子だ。」
と、分かったような分からないような説明を受けた。父さんを見てすぐ父さんだと分かったのは、失踪騒ぎがあった頃のままほとんど変わっていなかったからなんだと後々ながら思った。それにしても、都合のいいように作られているなとそう思う。父さんの現実世界での家族構成から、ゲームの世界でもそれに似た世界になるように調整される。ゲームだから出来ることだ。父さんがそれを望んだのかそうでなかったのかを置いといて、ゲームはウマく出来るように作られているんだとこの第二現実を眺めながらそう思った。

他の差も現実とかなりの違いをもたらす物だった。この世界は今までいた日本、地球ではないというのだから、これを初めて舞華から聞いた時には思わず頭を掻いてため息をついてしまった。
「ここは、昔からとても街の景色が美しいことで有名なんです。れんが造りの道に、お洒落な繁華街、まるで本の世界に迷い込んだような街の作りがこの街の誇り…特色のような物なんですよ。ただ、中央街の真ん中にある真っ黒い塔『センタータワー』だけ街の雰囲気を壊してしまって残念なんですけど…。街が美しいので、街の人も街の雰囲気を壊さないようにしているんです。自家用車はあんまりなくて車はバスとタクシーくらいですし、電車もローカルのが街外れにあるくらいです。それでもあまり問題ありませんし、私はこの街を気に入ってます。」
舞華はあのとき笑っていたが、僕は素直に笑えてなかっただろう、本当の日本じゃそんな都市はないだろう。街でありながら、その環境を創りだすのはまず無理がある。この三日間では自家用車はいっさい見ていない。街外れの駅にも案内してもらったが、そこは前にテレビで見た田舎の駅のように無人駅だった。それに電車の運行する回数も一時間に1、2本。街はそれなりの都会であるのにあり得ない光景だった。

ゲームの世界では現実にはない"良さ"があった。でも、だからこそ、現実で過ごしてきた僕にはなにか動きづらさを感じさせた。しかし、そんなこと以上に僕がこの世界に慣れさせない理由があった。この三日間もそれはいつでもついてきた理由である。
それは、差等ではなく、父さんの存在そのもの、現実世界からこの楽園にやってきた彼だ。そう、現実世界にいるはずの彼がここにいること、この理想郷に住み着いていること、その事自体がいつまで経っても止まない違和感だった。

今日も彼はここにきて四日目になる僕にこの世界について色々話してくれていた。リビングにあるテーブルに美華さんが入れてくれたコーヒーと適当なお菓子を置き、僕と父さんは向かい合う形で腰を掛けていた。父さんはさっきからこれまで通りこの世界のことについて色々話を聞かせてくれていた。

「…ここは、ゲームの世界で地球じゃない。世界自体は地球の1/4もない。海と陸は6:4くらいで構成されていて地名やおおよその雰囲気はそのままだが、例えば、ロシアと日本が同じ面積だったり、共通語が日本語だったり…、これを作った人が日本人だからだと思うがね。日本人しかこの世界にまだ入っていないみたいだし。とにかく、ここは理想郷なんだ。エネルギーや環境、景気、戦争、そんな一切の問題がないし、ある程度の差はあれどみんな窮することなく幸せに暮らせるようになってる。人が望んだ世界、それを目的に作られたんだ…」
と、父さんはそういって、どこか遠くの方を眺めているようだった。一日目こそ、こんなふざけた事を言えば殴りたくもなったが、今はもうそんな事をするつもりも無い。やるせなさや、情けなさがそれより勝っていて殴る気にもなれなかいのだ。美華さんからも、
「かいむ君も、私の大切な子だから、ここでは気を張らずゆっくりしていていいのよ。美良も舞華もなかなかクセのある娘だけど。仲良くしてあげてね。それと…私がいえた義理じゃないけど、カイ君のこと許してあげてくれないかしら…彼はなにも無責任に今まで全てのことを行ってきたんじゃないから。」
と優しく言われていたので、父さんを弾劾するのは気が引けた。
でも、当然、父さんのした事を許せるわけはなかった。理想郷にいって、こんな家庭を持って幸せな生活を送っている彼を許せるはずがない。彼がいなかったせいで僕らは…。気がつくと手が震えていた。父さんはきっと気づいていないだろうが…。
父さんはしばらく僕とは別の方に視線を向けていた。彼が何を考えているのかは想像もつかなかったし考える気もなかった。僕は、一つため息をつくと目の前のコーヒーに口を付けた、が、いきなり、

「それで、お前はどうする気なんだ?」
父さんが思い出したかのように(いや実際に今思い出したんだろう)尋ねてきた。僕はコーヒを飲むのを諦めてカップから口を離し、不機嫌に返した。
「どういうこと?」
「これからここで何をするのかってことだ。」
何をするもなにも、父さんがどうして母さん達を捨てたのかが知れれば(もう、皆目見当はついているが)、それで帰るつもりだった。父さんがもっとまともなら、一緒に暮らしたいとも思ったが…、
「どうするって…別にすることないし、適当に用が済んだら戻るつもりだけど。」
「やっぱり帰れると思ってたのか…」
父さんのこの一言に僕は凍りついた。耳を疑った。この発言は明らかに僕の人生を左右するようなことだった。僕は緊張しながらおそるおそるさっきさらりと言った重大発言を聞き返した。
「…帰れないの?」
父さんはしばし何も言わなかった。視線を360度様々な場所に移し思考している様子をみせ、そして視線がこちらを向いたかと思ったら小さくため息をして口を開いた。
「結論から言うと帰れる。ここに来る方法があれば、当然帰る方法も用意されている。だが、帰るためにはある物が必要になる。それがあの球形のマシンだ。」
僕はホッとした。全く変える手段がないとばかり思ったからだ。でも、そんな僕の考えは甘かった。

「しかし、用意はできん。」

「そ、それってどういうことだよ!!?」

父さんの第二の衝撃宣言に僕は声をうわずらせてしまった。
「もともと、このゲームは現実世界でまだ3本しか発売されていない。しかも、発売されていたのは短期間でかつ高額だ。だから、本当にここにきたい人のみここにきている。ということはだ。ほとんど帰る者はいないと想定され、この世界には10本しか帰るためのソフトを置いていないし。市場で出回っている物は6本しかない。ソフトが少数な分、高額でだ。」
「そ、そんな…」
呆然とした。簡単に帰れるものと思っていたのに…下手をすればもうもとの世界に戻れない。かなりのショックだ。しかし、ここにきてとある疑問が浮かんだ。
「ねぇ。何で世界に3本しか出回っていない高額なものを2本も父さんが所持してたのさ。それにどうしてそんなにこの世界とかゲームに詳しいわけ?」
この問いに父さんの眉が少しピクリと動いた。
「あぁ、知らないだろうが、これが発売された当時はとてつもない反響があったんだよ。ネット内もそうじゃない地上波放送番組でも本当かどうかも分からないような噂が何千何百と飛び交っていた。まぁ、そんなデマに引っかかった奴らはこの世界に確実に来れないわけなんだが…。そのデマにだまされないで本当の情報に行き着いたとき、通常購入とは違う別の方法があると分かったんだ。このゲームは一個一億円で取引されていた。でも、一億をださなくても、テストという形でゲームを得ることが出来たんだ。テストでこのゲームに入るのにふさわしい人だと認められれば無料でこのゲームを進呈していたんだ。そして俺はそれに合格したんだ。」
「…」
今イチ納得いかなかったけれど、この場はとりあえず信じることにした。嘘をついたところでどこに利があるのか分からなかったからだ。それに、僕がいいたい事は他にあった。

父さんは僕の目を見て何を言わんとしているのかを察したようだった。いや、いつかは触れなければならないことだと向こうも思っていたらしい。だから、僕は父さんの想像通りの何時かは触れるべき内容について言及し始めた。
「いつか、いつか話そうと思ってたんだ。父さんと…。今まで機会がなくて言えなかったけど…。
僕が、そういい始めた瞬間だった。父さんが話の途中でいきなり席から立ち、そして何をするのかと思うと、バッと手を床について頭をとても深く下げた。土下座だった。

「すまない!本当にすまない!」

父さんの思いもかけない行動に、僕は動揺した。でも、ここでひくわけには行かなかった。
「な、何だよ!謝ればいいって話じゃないじゃないか。父さんがいなくなったから、父さんがこんなところにきたから僕は家族と離ればなれになったんじゃないか!みんなが離ればなれになったんじゃないか!!何で僕はずっとこんな思いをして、何で父さんは理想郷で安穏と暮らして…家族までいて…勝手なことばかりして…幸せそうで…。フザケルな!
父さんは、土下座のまま僕の話を聞いていた。その様子を見て、僕は更にやるせなくなる。
「何で僕にここに来させたんだよ。何で今頃!!幸せを見せつけたかったのかよ!くそぅ、どれだけ僕が…」
僕は、あまりのやるせなさに思わず涙が出そうになっていた。僕の人生は、父さんに狂わされ、そしてその代償が、目の前の土下座。父さんは、この理想郷で理想の生活を享受し、僕は元いた世界に戻る事すら困難な状況だ。もう、泣き叫びたかった。
「あんたが、僕たちを捨てたから!!」

「やめて下さい!!」

「美華…さん…」
今までキッチンで静かにしていて父さんと僕の会話を聞きながらも話に入ろうとしなかった美華さんが突然叫んで僕を制止した。
「かいむ君の言いたいことはよくわかるつもりだけど、カイ君のことを知らずに彼をそんなに咎めないで!」
美華さんが土下座をする父さんの前に立ち、彼をかばった。それを父さんは力なく制した。
「いいんだよ、美華。俺が全て悪いんだ…。いくら言い訳しても許されることじゃない。」
美華さんの方は父さんがこういっても引こうとしなかった。
「いえ、こういうことはハッキリとしといた方がいいんです。それにカイは十分悩んで苦しみました。そんなに自分を責めないで。私が…悪いんですから。」
「…美華…」
父さんはこれ以上何も言えないようだった。美華に諭され席についても父さんは下を向いたままだった。僕が視線を美華さんに移すと美華さんは僕をしっかり見つめて、彼の代わりに語りだした。
「私とカイ君の昔話…聞いてもらえますか?」
僕は静かに頷いた。

美良と舞華がまだ来ない夕食前のリビングで父さんと僕の関係を変えていく何かが語りだされる。そんな気がした。

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