DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 6.1

chapter6-1:僕らの夏休み:

照りつける太陽、雲一つない空、まさに夏そのものっていった感じだ。しかも、そんな天気の日に来ているところが海なものだから、今の気分は『夏』それだけだった。

強烈な太陽光によって熱された砂浜は白く、白く、所々で光が反射してキラキラ光っている。砂浜が綺麗なせいか、砂浜を歩くと;キュッキュッと心地よい音がした。視界に入る物は、地表から沸き上がる熱によって少しぼんやりして見える真っ青な海と純白の白浜それだけだった。定期的に聞こえてくるさざ波の音が、僕が今、海にいることを更に色濃く実感させてくれた。どういうわけかこんなに綺麗で素敵なところなのに海岸はそんなに込んでいなくて人はまばらだったのがますます、海そのものの良さを引き立たせている気がした。

そんな、妙にテンションが上がった僕の、背後では、そんなさざ波の声をかき消すかのような大口論が行われていた。僕は勿論その声が、嫌というほど、聞こえてはいたが、敢えて無視をした。後ろを向くのも怖くて、ずっと海を見てこの広さを体感する振りをしていた。しかし、そう長く、第三者ぶってもいられない。背後で行われていた口論のベクトルはこちらにも容赦なく向けられているのだから。

「なんで、なにが嬉しくてこいつとこんなとこに来なきゃなんないのよ!!」

「美良!!だから何度言ったら分かるの!?兄さんは私達の兄妹で家族なんだから、一緒に来るのは当然のことでしょ!!」

口論しているのは、言うまでもなく美良と舞華である。口論の元凶である僕は、どうして、僕がこんな目に会わなきゃならないんだとか思いながら、こわごわ彼女らの方に振り返った。
「ご、ごめん…」
つい、謝ってしまっている自分が情けなく感じた。兄の威厳もへったくれも無い。そもそも美良に関しては兄と認められてすらいない。認められたからといってここはヴァーチャルなわけで、本当の血のつながりが無いから何が変わるわけでもないのだが、ここまで人に拒絶されるのは…
「兄さん!謝らなくてもいいんですよ!!悪いのは美良です!!」
「私だって被害者よ。いきなりこんな兄貴が異世界とやらからやって来たんだから…」

「美良!!」

「いいんですよ、舞華さん。気にしてませんから。」
内心、凄く傷心中の僕だったが、兄として(?)ここは我慢して今にも美良に掴み掛かろうとする舞華を制した。舞華は納得出来ないような顔をしていたが、僕の意見を尊重してか、美良にそれ以上何も言わなくなった。
「ふふ〜ん。分かればいいのよ。ア・ニ・キ♪」
舞華が大人しくなったのをいいことに美良は、皮肉っぽくそう言ってきた。美良は勝ったと言わんばかりにニヤリと笑っていた。が、
「美良ちゃ〜ん、せっかくのみんなでの旅行なんだから喧嘩してたらダメよ♪」
美良の背後から突然、美華さんの影が現れた。勿論、それはもう美しいほどの笑顔で…。美良はさっきまでの威勢の良さを完全に失って、錆びたブリキ人形のようにキシミキシミ首をまわし、視線を後方にやった。
「この旅行は懇親会も兼ねた旅行なんだから…分かってるわよね♪」
「はい、お母さん。かいむとはとても仲良くさせて頂きます…。」
「ならいいの。さぁさぁ、今日はみんなで海を満喫しましょ〜!カイく〜ん、ここにビーチパラソル持って来て〜。」
美良が喧嘩終了を宣言すると、美華さんは何事も無かったかのように、荷物を担いでいる父さんのほうにかけていった。一方、美良はその場に固まってしばらくの間動かなかった。
「美良さん、固まってますけど大丈夫なんですかね?」
「自業自得です。」
舞華はそう言うと、美華さんの方に向かって歩いていった。
気温が2度ほど下がった気がした。

そもそも、僕らが海にやってくることの発端は、今日の朝にさかのぼる。
夏休みも七月を過ぎ、もう盆近く夏休みも折り返し地点を迎えようとする日、僕は夏休みということは特に気にもせず、いつも通り、のんびりと夏の日の朝を過ごしていた。いつも通り、リビングでオーブンで焼いたパンにマーガリンを塗り、コーヒーを入れる、そしていざ、食パンをほおばろうと口を広げたその時、
「かいむくぅん、今日は海に行くわよぉ!」
リビングの戸が開き、もう、海に行く用意を一通りすませた美華さんが張り切ってそう言った。いきなりのことに、僕は口を広げた間抜けな状態のまま美華さんの方を見て呆然としてしまっていた。
「海…って…海ですか?」
「そうよ、もうすぐクラゲが大量発生しちゃって、海に行けなくなっちゃうでしょ。だからその前に家族ぐるみで旅行よぉ!」
「でも、今日っていくらなんでもいきなりじゃ…それに僕、用意とか何もありませんよ。」
「かいむ君のはもう、買って来たから大丈夫!それに思い立ったが吉日とも言うじゃない。それとも用事が何かあるの?」
「いえ、無いですけど。って、買って来たって!えぇ!?」
「なら、行きましょう!カイ君達はもう用意ができて玄関で待ってるわよ。」
美華さんはそういうと、僕の服の袖を引っ張り、食事中の僕を問答無用で海へと連れて行こうとした。僕はトーストを持ったまま、何がどうなっているか分からないまま、美華さんに引っ張られ玄関に連れ出された。
「ちょっとー、いくら待たせるつもりよ。」
「いきなり決まったことだからしょうがないじゃない。」
「こいつが、とろとろ起きてるからこうなってるんじゃない。」
「まぁまぁ、今日は久々の家族の旅行なんだから喧嘩はやめてくれよ。」
玄関にはもう、みんな準備万端な家族の姿があった。ここでは、こんなのが普通なのか…?そんな疑問が浮かんだのも束の間、無駄と思えるほど元気な美華さんがハンドバックをもつ右手を上げ、
「さぁ、海にシュッパァーツ!」
 そんなこんなで、電車に揺られ、少し離れたこの海にやって来たのだが…
「さい先不安だなぁ…」
海を目の前にそう漏らしていた。
「まぁ、そんなに、気落ちするな。美良は本当は優しくていい子なんだ。恥ずかしがってるだけだよ。で、かいむは泳がないのか?さっさと着替えて来たらどうだ?」
僕が背中を丸めていると、もう、ビーチパラソルの設置等一通りの作業を終えた父さんが僕の方までやって来て、励ますようにそう言った。
「そんなに、泳ぐのが好きでもないし、一緒に泳ぐ人もいないんじゃ…」
「だめだだめだ、仲良くいかなきゃな。自分から歩み寄らないと、仲良くはなれないぞ。」
「何したって、美良さんには無駄な気がするんだけど…」
「っもう、美華が心配する前にさっさと着替えてこい。じゃないと…」
父さんに本気か冗談か分からないようなことを言われ、恐喝かよ…とか思いながらも、本当に美華さんに何かおこしてしまうといけないので、僕はとりあえず、父さんが買って来た水着を手に脱衣所で着替えることになった。

僕が着替えてくる頃には、始めから着替ていた二人はそれぞれの形で海を満喫していた。舞華は浜辺でゆっくり美華さん、父さんと話をし、美良は一人で海に入って泳いでいた。僕はどちらに行こうか迷う間もなく舞華らのいる方に歩を進めていた。
「あ、兄さんも着替えたんですね。」
「まぁ、海に来たからにはね、舞華は泳がないの?」
「私はあいにく、泳ぎはあんまり上手くなくて…」
「カナヅチってこと?」
「全くではないんですけど、クロールしか出来ないんですぐ疲れちゃうんです…」
舞華はそう言うとしょぼんとしてしまった。まずいことを言ってしまったかと思い、僕はあわてて話題を転換した。
「父さん、この海、凄く綺麗な割に人が少ないね!」
父さんはいきなり話をふられ一時ポカンとしていたが、何となく事を察したのか、意味の無い首肯を2,3度してから口を開いた。
「あ、あぁ。まぁここは穴場だからな。普通の人は大衆海水浴場に行くし。ほら、海の家とかも無いだろ?」
そう言われてみれば、夏の海定番の海の家が視界に入る限り一軒も無かった。ライフセイバーの人もいない。ここにいるのは、散歩する人や、写真を撮る人のような個人的に海を楽しんでいる人ばかりだった。確かに海で泳いでいる人もいるのだが、一人につき25mプールほどの広さを独占出来るほどだった。
「まぁ、ここは人口自体も少ないしな…」
僕に言っているのか、独りごったのか。父さんは遠い目で美良と海を見ながら呟いた。ここはゲームの世界、現実の世界とは違う理想郷。すっかり忘れて海を満喫してしまっていた。ゲームなんだからこんなこと当たり前だったんだ。
「何か、一気にしらけちゃったなぁ…ふごっ」
僕がゲームの世界に気づき落胆の声を漏らしてしまった。その瞬間、驚くほどの勢いで父さんの手のひらが僕の口にかぶさった。理由は言うまでもない。
「かいむくん?楽しくないの?」
夏色よりもまぶしいその笑顔は、まだ見ぬ地獄を想像させた。僕は、父さんの手を払いのけると高速で首を横にぎゅいんぎゅいんと振り「楽しいです。」と連呼した。舞華も父さんもそんな僕の様子を見て思わず苦笑した。対する美華さんはサハラ砂漠を照りつける太陽よりもまぶしかった。
「楽しいですよぉ、た、たのしいから…海で泳いできます!!」
僕はしどろもどろになりながら社交辞令を塗り重ねたような笑顔で海にはしるはめになったのだった…。

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