DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 6.2

chapter6-2:僕らの夏休み:

海に駆け出し、ピチャピチャと膝元の深さになるまで必死に走ってきた後、僕は暑さでも、走った運動からではない汗がだらだら流れているのが分かった。顔は引きつり、常時、笑顔状態になっていた。振り返るのが怖くて海の遠く遠くを見ているしか無かった。美良が気持ち良さそうに泳いでいる…。一人で泳いでいられる自信は無い、それに懇親会も兼ねているといっているのにお互い、別々に泳いでいるようではきっと…。でも分かっている、このまま美良の方に行ったところでどうなるのかくらい…。ジレンマ、八方塞がり、四面楚歌?今まであれほどまでに煌煌と照りつけていた太陽の光が嫌に冷たく感じた。
「…いくしかないんだ。しょうがないんだ。」
肩をがっくり落として、僕は海に入り、美良の泳いでる方に向かう、心なしか海水は慰めてくれるかのように温かかった。きっと、太陽光の熱を吸収しただけなのだろうけれど。

「なんで、あんたがこっちにくんのよ!!」
(思った通りだ…)
少し陸から離れたところで僕は何とかクロールで平泳ぎをしていた美良に追いついた。美良は僕が来たからといって、泳ぎをやめるでも無く、むしろペースを速めているくらいだ。
「あのぉ…。」
「…。」
「ちょっと…。」
「うっるさいわねぇ!聞こえてるわよ!」
そう叫ぶと、ようやく美良は泳ぐのをやめ、立ち泳ぎ状態でくるりとこちらを向き、話を聞く(とは言ってもきっと怒鳴られるだけなのだろうが)体勢になってくれた。僕は、少し疲れた体を休めるように、力を抜き同じく立ち泳ぎ状態になった。
「すいません。あの、美華さんに…」
「どうせ、怒られでもして居辛くなって、一人でいるのもどうしようもなくなってこっちに来たんでしょ?」
なんでそんなに、分かるんだよ。とか思いながらも全く持って図星なので何も言えない。そんな僕を見て、美良はおもーいため息をつき、僕を哀れむような、睨むような目で見つめてきていった。
「まぁ、私も居辛いから泳いでるけど、あんたなんかと一緒にいるのなんて絶対嫌だからね!!もう、ついて来ないでよ!あんたはあんたで何とかしなさい。」
「でも、懇親会も兼ねてるから仲良くしないとまた…」
「それでも嫌なものは嫌なの!とにかく、ついて来ないで!」
思った通り、邪険に扱われまくり、僕は兄として男としての尊厳もへったくれもないままに美良の言葉のとおり、その場に立ち泳ぎ尽くすばかりだったのだった。美良は僕から離れようとより沖の方へと泳いでいっていた。次に何をすればいいのかも全然思いつかない僕はただただ、呆然としながら美良の方を眺めているしか無かった。

"キィィーン"

しかし、その事態は次の瞬間一転した。
「美良さん!!?」
思わず僕は叫んでしまっていた。僕の視線の先にあった美良の姿が消えた。いや、消えたのは一瞬であったのだが、その消えたあと美良は明らかに今までの遊泳とは違い、手足をばたばたさせて、焦っているように見えた。
「溺れてる!?つったのか?いや、そんなこと言ってる場合じゃない!!」
このビーチは、人が少なく今の状況に気づいている人も少ないだろうし、今助けにいけるような人間も居ない。ライフセーバーも居なさそうだったし…。これは、僕しか今の状況を何とか出来るような人が居ないということになる。
「行くしか…ないよな!!」
僕は、とにかく溺れる彼女を助けるべく彼女に向かって一生懸命泳ぎだした。不幸中の幸いに僕と美良の距離がまだそんなに離れていなかったことから、すぐに僕は彼女の方までたどり着き、彼女の手の届くところまでくることが出来た。ただ、問題はそれからだった…
「か、かい!!む!?」
「美良さん!落ち着いて、今助けますから!」
ここからが問題なのだ。よくニュースとかでこういった状況が報道されるが、助けにきた本人も巻き込まれそのまま亡くなるというパターンある。服の重みにちゃんと泳ぐことが出来ず逆に溺れてしまう場合と、混乱状態の溺れている人にしがみつかれ、泳げなくなりそのまま溺れてしまう場合がある。今回の場合、危険視すべきは後者の場合だ。僕は何の変哲も無い一般素人。彼女をそのまま助けようとすれば、二人揃って溺れてしまう。確か、下から潜り込んで背中から腰の辺りから引き上げるんだったはず…。簡単に言ってくれる…。素人に出来ないから専門家がいるんだろうに…。でも、そんなこと言ってられないやるしか無いんだ。

僕は自分を落ち着けるようにそう自己暗示をかけ、美良の前で素潜りをした。実際には素潜りすらできているか怪しかっただろう。人間の体は思ったよりも浮く、潜ろうとするだけで浮力を受けそれを拒まれ、深くは潜れそうも無かった。でも、その時の僕は必死でそんなことに気づけるはずは無い、気づいていたとしても後には引けない。海水で目がしみて、閉じそうになるのを堪えながら、美良の後ろに何とか回り込み、腰(もはや息がしたくて腰と思えたところ)を掴み引き上げてみた。
「ぷはぁー!!ゲホッ、ゲホ!…だ、大丈夫!美良さ…、大丈夫だから、ジタバタしないで!」
「ゲホッ!た、助けて!ガハ!」
持ち上げて終わりかと思ったら、美良は顔が海面より上にあるにも関わらず、必死に四肢を動かしてもがくのをやめようとはしなかった。美良の手で跳ね上げられた海水が目に鼻に口に入り苦しい。
「大丈夫!だい…ゲホ!だい、じょぶ!」
僕の声が聞こえないのか、美良はもがくのをやめない。足を蹴られ立ち泳ぎが出来なくなり、彼女を持つ手に力が入らなくなっていく。大丈夫と自分を励ますも、この状況を打破出来る希望が全くなかった。
「美…らさ…。」
僕の声は微かでもう虫の羽音程度だっただろう。美良を掴んだ手は無情にも離れ、僕は海の中へと沈んでいった。

***

気づいたら、もうそこは暗闇だった。
目を瞑っても目を開いても、同じ暗闇。僕はもう、死んでしまったのだろうか。まさかゲームの中で死んでしまったら、末代まで残る恥だ。残る末代なんて居ないけど…。そんな馬鹿なことを考えるくらい、この暗闇はあの世のように見えた。というよりあの世なのだろうけど。
「こんなことなら、ゲームの中に入らなきゃ良かった。」
自分の安易な行動を呪いつつため息まじりに僕はそう言った。すると、僕から出てきたその声は、幾十にも反響し、山びこのようになった。
「あれ?」
その声もまた反響し、まるで洞窟の中にでもいるような…。洞窟?
「もしかしてここは…」
僕は真っ暗闇の中を必死に目をこらすようにして、辺りを見回した。そうすると夜目がきいてきたのか、真っ暗だと思っていた闇の中からぼんやりとごつごつした岩のような物が見えた。僕はそおっとその物に触ると、それはまごうこと無き岩だった。また、自分の今座っている地面にも触っていると同じく岩。
「やっぱりここは洞窟…」

"むに"

「?」
洞窟だと思って地面をぺたぺた触っていると、あるところで感触が変わり生暖かくて柔らかいものにあたった。僕はその不思議な感触に少し力をこめておしてみると、それはまるで人の体のような…。人の体?
僕は、あることにピーんとひらめき、自分の手の方に目線を落として、こらしてよく見てみた。
勿論その勘はあたるわけで、

「み、美良さん!!!?」

僕の手の先には目を閉じて倒れている美良の姿があった。彼女は僕の上ずった声にも反応せずくたっと倒れているだけだった。
「ちょ、ちょっと美良さん?大丈夫ですか?」
最初は彼女に触れてしまったことに対してビビっていた僕だったが、一向に起きる様子のない彼女を見て、そんな気持ちは一気に吹き飛び、次に彼女が死んでしまったかもしれないということに恐怖心を覚えた。僕は美良の肩を揺すぶり、意識があるかを確認する。しかし、
「…」
彼女は何も答えない。僕は湿った体からさらに冷や汗が出てきた。
「美良さん!!分かりますか?美良さん!?」
僕は美良の顔を軽くビンタしてみた。それでも彼女は意識が無い。まさかこれは本当に…
「そ、そうだ。呼吸!」
僕は彼女が息をしているかの確認をしてみた。すると、幸い彼女は呼吸を正常にしていた。ようやく彼女が無事なことを確認すると、僕はどっと疲れが湧き出て、ヘタレこんだ。
「お、驚かせるなよなぁ…」
美良がまだ意識が無いのをいいことに、ちょっとぼやく。ちょっとというのはもしもきかれていたら怖いという本当にどうしようもなく情けない僕の性格からきている。僕は、僕をいつも怒鳴る彼女をこの時とばかり眺めてみた。彼女は静かな呼吸で静かに倒れていた。
(美良さんももっとおしとやかなら凄く美人なのに…)
そんなことを考えながら、僕は彼女の顔を眺めていた。そして何の気もなく視線をツツーッと移していった。

「〜ッ!!!!!!!!!!!!!」

次の瞬間には僕は彼女の方から顔、体を背けていた。何でかって、くらくて見えないながらに彼女の上着が見えなかったからだ。もしかしたら僕の見間違いかもしれないが、ここでまた彼女を見て確認するわけにはいかない。もし見てしまったら彼女に殺される。いや、拷問にかけられたあげく半殺しで苦痛を与えられ続けられるかもしれない。待て、この状況だと彼女は僕が見ようが見まいが、僕の弁明の前に半殺しかもしれない。
「どっちにしろだめじゃん…」
これは何とかしないと。彼女が目を覚ますまで隠れていて、覚ましてから出てくるというのはどうだろうか、いや、それでも出てきた瞬間エラい目にあうだろう。彼女を放っていくことも出来ないし。僕は自分が今どこに居て、どうすればいいかを考える前に、この美良との問題の解決策を必死に熟考していた。僕は唸りながらあれやこれやと案を考えだしていくがどれもこれもいまいちな物ばかりで上手くいきそうも無い。それでも、僕は脳をフル回転させ案を絞り出そうとする。だが、
「…もう、諦めよう。」
僕は脳がオーバーヒートしてしまい。結局諦めた。そもそも、今ここがどこで、どうやったら二人助かるかを考えだすほうが先決なのだ。何を馬鹿なことを必死に考えていたのか…。僕は、あまりの自分の情けなさっぷりにまたがっかりした。そんな時、
「う…うぅん…。」
僕の後ろの方から声が聞こえた。声の発生源は美良である。
(いやいや、タイミングが悪すぎるだろ〜)
僕のそんな心の嘆きの声も天には届かず。美良は、声からして意識が戻ってきたようであった。
「うぅ、あ、あれ…私…。」
「…」
「ここは…どこ?何も、見えない…。」
「…」
「あぁ、頭が痛い、はぁそっか、私溺れて…。!そうだ!かいむ?かいむ?」
流石に呼ばれているのに返事しないわけにはいかない。僕は渋々ながら彼女に返事をした。
「ここにいますよ。だ、大丈夫ですか?美良さん。」
「はぁ、良かった。あんたも生きてたのね。で、ここはどこ?」
(まだ、気づいてないのか?それともやっぱり僕の見間違い?)
「洞窟の中みたいですけど、僕も今起きたばかりなんで。」
「そっか、……ん?」
「ッ!?ど、どうかしたんですか?」
僕の言葉が反響しその後、少し沈黙が流れた。まさかと僕が思ったその時、僕の背中から声にならない声が上がった。はぁ、短い人生だった。
「ちょ、ちょっと、え?まさか…とれ…。かいむ!!」

「はひっ!!」

美良の僕をよぶ声が怒鳴るような強い物だったので、ビビって僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あなた…何かした?」
「な…何をですか?」
「ん〜…、そ、の、何て言うか…。見てないわよねぇ!!?見てないわよねぇ!!!!」
「見てません!」
「…やっぱり…見たんだ…」
「あ"…」
何をしたのかと聞かれて何をかと聞き返したのに。何を見たのかと言われていないのに、見てませんと答えてしまったのはまずかった。ここでは「何をです?」と聞き返さねばならなかったのだ。僕はクリスチャンではないが思わず十字を描いてしまっていた。でも、この後の美良の行動は、僕の考えていた彼女の行動とは全く違っていた。
「…もう、いいよ。こんなことになったの私のせいだし。」
「!?え?」
「どうせ、気の弱いあんたなら、見たって言ってもそんな大した行動がとれるとは思わないしね。許してあげるって言ってるの!」
「いや、え、まぁ。暗くて本当に見えなかったですし…」
「ふふ、まぁそう言うことにしといてあげるわ。かいむ。」
「なんです?」
「助けてくれてありがとう。さっきはごめん。」
まさか、彼女からこんな言葉が出てくるなんて予想外だった。僕は背を向けながら、彼女の優しい声に思わず顔を赤くしてしまった。暗闇できっと見えないだろうが、この気恥ずかしさを払拭するために僕は美良に背を向けながら立ち上がって言った。
「まだ、ここから助かったわけじゃないですし、ここから抜け出す方法を考えましょう。」
「そうね、あ!かいむ!許すからってこっち向いたら許さないからね!!」
「分かってますよ。行きましょう。」

僕らは真っ暗闇の中を壁に手をはわせながら洞窟の中を進んでいった。そもそも、ここに流れ着くということは、どこかの洞窟につながる岸のところに流れ着いたか、海の中にある何らかのトンネルに入り込みここまで来たかのどちらかであろう。まさかここがあの世なんて事があったらシャレにならない。ここは現世できっと帰る方法はある。僕は何とかして光を探しながら少し湿った洞窟を二人で進んでいった。
「ねぇ、かいむ。」
「ん?なんです?」
「ち、ちょ!こっち向かないで!!」
「すいません!でなんですか?」
「私達、ここに流れ着いたって事はここは海につながってるって事よね。」
「そうですね。だから多分海につながっているところか、どこか日の射すところに出さえすればいいと思うんですけど。」
「なら問題ないわ。さっきから風がちょっとだけだけど吹いてるのを感じる。」
「本当ですか?…本当だ。向こうに向かって風が流れていく…」
「少なくとも向こうは風が流れられるようなところがあるって事よね。」
「ええ!行きましょう!」
僕らが風の流れる方に向かって歩いていくと、思った通り先方から光がさしているのが分かった。
「助かった!!」
「ようやく、帰れるわね。」
僕らは助かるその喜びから、自ずと足が速くなる。光はドンドン大きくなり、そして目の前は光で満たされた。白い砂浜、青い海が目の前にあった。僕ら二人はその砂浜にばたんと倒れこんだ。体や顔に砂がへばりついたが、悪夢から脱出出来たことに比べればそれすらも心地よいと感じられた。
「はぁ…あとは、父さんとかを…」
「兄さん!!お父さん!!兄さんと美良がこっちに!!」
僕が声の方に目を向けると、僕らが抜けてきた岩のトンネルになっていた岩山の上で舞華が必死に叫んでいた。舞華が父さん達を呼ぶと少し遅れて父さん達がその岩の上に現れた。
「おーい!かいむ、美良!大丈夫か!?」
僕は父さんに苦笑で返した。美良も声無く片手を振っていた。
「全くもう…二人とも心配させちゃ駄目よぉ!ホンットウに心配したんだから。」
美華さんは僕らの姿を見て涙をぽろぽろながしていた。それはそうである。空はもう黄みがかっていてきっと時刻は夕方だろう。
「すいません。心配かけて。」
「もういいの、二人が無事見つかったんだから!でも、美良とかいむ君なにしてたのかなぁ?美良そんな格好でぇ。」
「え!?」
僕の隣でネッ転がってる美良は忘れていたのか自分の姿を再度確認する。もうここは日が出ているわけで、隠しているとはいえ、まぁさっきよりは見えるのだろう。見ないけど。
「あ、あぁ、これは!違うの!違う!!!もう!かいむの馬鹿ぁ!!」
「何で僕のせいになってるんですか!!」
「あんたがちゃんと助けてくれていたらこんなことにはぁ!うぁぁ!最悪よぉ!!」
さっきまでの態度はどこにいったんだと言うほどの屁理屈を言われ僕はぐったりとするしか無かった。

次の日、美良は僕に一言も口をきいてくれなかった。

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