DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 7.0

chapter7:物思いの少女:

夏の底知れぬ暑さも、そろそろ折り返し地点を迎え、液晶上で高校球児が汗と涙と夢をもってボールを追いかける。もう夏も終盤、お盆の時期がやって来た。ここに来てから、一切学校に行くことがないので、この夏はあの膨大な紙束(宿題)が無い。そのためか、いつも以上にこの夏は速かった。何となく勉強をあまりにしていないことからくる恐怖感から、僕は、最近、この世界の教材を買って暇つぶしに勉強していた。こういうことをすると、他の人からはどんなにか勤勉な少年かと思われるだろうが、他にすることが本当に無いから仕方なくしているだけである。ここでは、女系家族だからか、テレビゲームなどのものは無く、一応あるPCも、特に趣味の無い僕にはサーフィンをして一日を過ごすことも出来ない。高校生でお金もない僕にとって、そう簡単にゲーム機を買うことも出来ず。漫画もそんなに買えない。舞華から本を借りようとしたら舞華は恥ずかしがって貸してくれなかった。美良は言わずもがな相手にすらしてくれなかった。そうなると、親に何とか言えば買ってもらえる参考書で勉強するに至るわけだ。

とにかく、この前に行った海水浴を除いて何も無い夏に僕はそろそろウンザリしていた。そんな8月14日のこと。

「かいむ?いる?」
僕が、いつものようにぼんやり数学の参考書を眺めていると、珍しく美良が僕の部屋にやって来た。
「あ、はい。いますよ。」
「それじゃちょっと、入っていい?」
「いいですけど…」
僕がそう言うと、美良は何のためらいも無く入ってきた。特に、それがどうというわけではないのだけれど、今まで美良からここに来ることが無かったので少し驚いた。僕は美良を不思議そうに見ていると、美良はそんな僕の間抜けな顔も気に留めず、僕の机に置いてあった参考書を見て顔をしかめた。
「あんた、学校にも行ってないのに数学の問題なんてしてるの?物好きねぇ。」
「好きでしてるわけじゃないですよ。やることがないんです。」
「だからって、何も勉強する事無いでしょうが。」
「でも、漫画やゲーム機なんて買えないから…」
「舞華に本でも借りてれば?」
「舞華さん、恥ずかしがって貸してくれないんですよ。」
「…まぁ、それもそうよねぇ…」
美良は意味深にあごに手を当て、ふむふむと分析しているようなポーズをとった。頷いている理由の分からない僕にとっては、この行動はとにかく舞華の持っている本の内容を知りたくさせる、もどかしい行動だった。
「あのぅ、舞華さんの本ってどんなのなんですか?」
「あっ、そうそう。こんなこと言いに、こんな男臭いとこに来たんじゃないの。」
(す、素無視ですかい!?)
「あんた、今日どっかにいく予定ある?」
全く、美良は我が儘というか自己中心的というか…。
僕はさっきのスルーされたことを不満に思っている事を示すかのように、美良を一点に見つめ、無言の糾弾を行った。
「いく予定はあるのかって聞いてるの!?」
「…」
「全く…あんたもっと男らしく私にびしっとでも言えないの?情けないわよ、その行為そのものが!」
「っぐぅ!!?」
どうして、僕が今、おされ気味なんだ?僕は悪いことなんてしてないはずだ…。でも、こんなこと言われていると男としてのプライドというか何というかが!
「っていうか、女の子のプライベートを知りたがるなんて、ストーカーの素質あるかもね?」
「!!!?」
こ、ここで、怒って美良に怒鳴ってしまうと。僕の負けになってしまう。僕は何も悪いことはしていない。美良は挑発してるだけなんだ。多分。
「まぁ、そっちが無言を貫くって言うならそれでいいけど。今日は、外に出ないでよ!」
「え?どうしてです?」
(…あ!!!)
…喋ってしまった。僕がしまったという顔を彼女に見せた瞬間、彼女は口が耳元までさへんばかりに、にんまりと笑った。
「喋ったわね?」
「…。」
「もう、無駄よ。喋っちゃったんだから。」
「く〜。で、どうしたんですか?外に出ちゃ行けないって。」
「何でも!外に出られたら不都合だから出てくるなって事。」
「今日って、丸一日ですか?」
「そう、都合が付くまでは外に出ないで!」
「それは、無理ですよ、ずっとなんて。僕が関係してることなんですか?」
「そんなことも無いわ。私の都合よ。それじゃ、外に出たいんなら、当分帰って来ないでね。」
「要するに、僕の部屋以外で家の周りに近づくなってことですか?」
「ん、まぁそういうことね。分かった?じゃぁ、外に出るなら先に出てって、残るなら残る!」
僕からしたら全く腑に落ちない話だが、美良の嫌がることを敢えてすることもない。僕に用という用が無い以上、別に応じない理由が無い。僕は、気分的には嫌だったが僕は仕方なく美良の要求に応じることにした。
「分かりましたよ。外を出て行ってきます。まだ都市部の方は全部回りきれていませんし。」
「絶対戻って来ないでよ。」
「分かってます。2、3時間は出かけてます。」
「3、4時間!」
「…分かりました。はぁ。」
「うん、それだけだから、じゃあね。」

"バタン"

言いたいことだけさんざん言って、美良は台風のごとく去っていった。
(舞華があんなにおしとやかなのに、どうしてあそこまで性格が正反対なのか。双子なのに…。あ、でも二卵性双生児だからお互いに関わりはそれほどないか。)
そんなことを考えながら、あんまりぐだぐだしてるとまた美良に何か言われるので、財布だけ持って外に出た。

その日は、暑いというよりは、温かいくらいのとてもいい気候だった。時折くる涼しい風が肌に当たって気持ちいい。僕は、桐生家から少し離れた、この街の中心街にやって来ていた。前に舞華が言っていた通りヨーロッパ風の町並みが未だ新鮮で歩いているだけで面白い。僕はそこら中にある、数多の商店をショーショッピングしながらレンガ敷の道を歩いた。この街は黒く荘厳なセンタータワーを中心として円状に建物が配置されており、中心街そのものが商店街かのようにどこもかしこも賑やかな客寄せや、お客さんとの会話を楽しむ店でいっぱいだった。あまりにその賑やかさが自然で、リアルに近かったのでゲームの中ということをまた忘れそうになる。
「いったい、どうしてこんなものを作ったんだろうな。この制作者は…」
僕は、素敵な店店を眺めながら、そう呟いた。きっとここにとけ込んでしまえば、とても素晴しい世界なのだろう。理想郷のこの場所にいれば現実にある恐怖に取り巻かれなくてもすむ。でも、それは逃げではないのだろうか?進歩なのだろうか?この技術があるということは…。

僕は賑やかな街の中、一人だけ立ちっぱなしでいろいろな、想像を巡らせていた。前を通り過ぎていく人はとても人に近いけど人ではない、美良や舞華や美華さんも…。一体、ここは何なのだろう、感覚のある夢のようなこの世界。
「まぁ、考えたところで、分からないな。何とかしてまたここから元の現実に戻らないと…」
僕は目を覚ましたかのように、パッと目をあけて、辺りを見回した。そうすると、店と店の間に小さな路地があるのを見つけた。僕はこの世界に何か隠されている謎があるのかもしれないと勝手に思い込み、とりあえず路地の中に入っていった。

路地は思った以上に長く、そして分岐点が多々あり、まるで迷路のようだった。迷路状の構造が逆に僕の気持ちに火をつけすべからく調べたい気持ちにさせた。必ず帰って、今まで通りの生活に戻ると、戻ったところでどうというわけでもないのに意気込んでは一つづつシラミつぶしにどこがどこに繋がっているかを調べていった。そうして、ほぼ全ての路地について確認し終わる頃には、僕は汗だくでかなりへばっていた。まさか、ここまで複雑に入り組んでいるとは思わなかった。階段等が途中に有り階層状の路地裏、ここまでする必要があるのかってほどだ。小学生なんかだとここで鬼ごっこやかくれんぼ等をしたら一日中遊べそうだ。実際に、一生懸命走っている少年を何度か見かけた。
「それにしても…つかれたぁ…」
僕はその場に腰を下ろし、路地裏から覗く区切られた青空を仰ぎ見てそう独りごちた。その独り言は疲れているせいか、まだまだ続いた。
「そういえば、もう3時間たったかなぁ。ていうか、もう経っただろう。疲れたし、服が引っ付いて気持ち悪い。帰ろ…」
重たい体に力を入れて立ち上がり、薄暗い路地をとぼとぼ歩いて帰路についた。

「あぁ、やっぱり調べるんじゃなかった…しんどい…」
僕は情けなく背を丸め両手をぶらつかせ、とぼとぼ歩いてようやく、桐生家の前までたどり着いた。
「あぁ、何か酷く久しぶりな気がするなぁ…、あれ?」
僕が桐生家の方を見ていると不思議なものが視界に入り込んできた。それは、全身を黒を基調とした服で覆った少女の姿だった。しかも、その少女はあの美良だった。
「み、美良さん!?」
僕の部屋に来た時には、普通の服だったのに…。一時は見間違いかと思ったが、どう見ても美良である。でも、今見ている美良は僕がいつも見ている美良ではなかった。髪を下ろし、沈鬱な表情でゆっくり歩く彼女は、先ほどまで、不敵な笑みを浮かべていた彼女からは想像出来ない姿だった。この時期だから、墓参りということも考えられるが、父さんや美華さんはどこにもいく様子は無かった。親族ではない…。なら誰の…。理想郷のはずのこの世界で不幸が起こるはずの無いこの世界で誰を…。
「美良さんは一体…」

"ガシっ"

美良の方をじっと見ていた僕は不意に後ろから肩をつかまれた。僕はいきなりのことに驚き振り返った。
「舞華さん…なんで…」
僕が振り向いた視線のその先には、少し怒った風にも見える舞華が立っていた。
僕の問いに舞華はとてもストレートに答えてきた。
「美良を一人にしてあげて下さい。今日は外に出るなとか言われなかったんですか?」
「あ、あぁ、言われましてけど。どうして。」
「…。今の美良は兄さんに自分の姿を見て欲しくないと思っているでしょうから。」
「?」
「すいません、彼女が秘密にしているのに私が美良の秘密を言うわけにはいきませんから。」
「いや、いいですよ。秘密を詮索するようなことはしませんから。」
僕は舞華にそう言ったものの僕は美良がどうしてあんな姿でいたのかは大いに気になった。でも、気になったからといって何でも尋ねるわけにはいかない。僕は知りたい気持ちを抑えて、美良が帰ってから、また近くをぶらぶらしてから帰った。

その日帰ってきた後の美良はいつも通りの勝ち気な彼女に戻っていた。一方が仮面なのか、両方が素顔なのか。その日は彼女をまっすぐ見れなかった。見たら、今の彼女が変わってしまうような怖さがあったから…。もう、そんな変化は見たくなかった。

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