DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 8.0

chapter8:遭遇:

「君もこの場所が好きなのか?」
その日、僕はこれからの物語を紡ぐ上で大切な人物に出会っていた。

***

僕は、盆に黒い服を着た美良を見てから、しばらくこの世界について、深く考えてみていた。この世界にどうしてあのような奇妙な出来事が起こるのかということである。父さんはこの世界を理想郷といっていた。確かにそれは事実だと思う。こんなに素晴しい世界で、何不自由なく暮らしていけるのだから。戦争もエネルギー問題も何も無いこの世界で生きていけるのだから。しかし、この世界で美良は先日、悲しげに、まるで喪服のような黒服を着てどこかに出かけてきていた。確かに、レアリティを求めるなら事故も必要だし、人間らしさを求めるなら犯罪も仕方のないことかもしれない。ただ、父さんはこの世界が人が望んだ世界であるといった。わざわざ犯罪を望む世界などあるだろうか。父さんが制作者にダマされているのだろうか。この世界も理想郷ではないのだろうか。制作者の意図、それが掴めないことにはこの問題は解けそうにない。

数名の人間をこの世界に呼び、そしてゲームの世界に住まわせる。いったい何をしたいんだろう。理想郷が正常に動作するかの実験体としてこの世界に入れられた?つじつまが合わないことは無いが、でも、これで問題が起これば現実世界でも騒動が起きるはず。手に入れられたのは少数でも話題に上がったのは事実、ひと騒動も起こらないはずが無い。なら、この理想郷をみんなで享受するため、邪魔にならない程度の人数で…。でも、それなら理想郷でないといけないわけだし。中に入った人間が不幸になるのを見て楽しむと言う方法か?でもそれならば、もっと効率よくする方法があるはず。父さんがここは理想郷といっている時点で、そこまで不幸なことがあったとは思えない…。

「あぁ〜、分からないなぁ!!」
簡易ベッドに横たわりながら、僕は頭をかきむしり、そうぼやいた。どれだけ考えても、制作者の意図が掴めないし、美良のあの謎が解けない。本人に聞けば分かることなのかもしれないが舞華が聞いて欲しくないことといってたし…。ゲームのNPCだからって、邪見に扱うには抵抗がある。NPCにしては、あまりに人間に近すぎる。
「結局、どうにもならないかぁ…」
真っ白な天井を眺めながら、どうにもならない現状にため息をした。
「もう、ここに残るしか無いのかなぁ…。はぁ、外の空気でもすってくるか。」
僕は、この嫌な空気を入れ替えるために、散歩に出てみることにした。この世界もいくら小さいといってもまだ知らないことは山ほどある。この世界について知れば、また何か分かるかもしれない。そして、今回の散策では確かめたいこともあった。僕はとりあえず今度は中心都市とは反対側のほうに、散策に出かけた。

中心街の賑やかさ、慌ただしさと対照的に駅の方がある中心から離れた宅地の景色は新鮮でいて温かい。閑静で確かに街ほどの面白い店や建物はない。ただ、そこにはノスタルジアを感じさせる何かがあった。しかし、僕はそこに引っかかった。いくら現実に似ていて西欧風の建物が建ち並ぶとても洒落た町並みだからといって、この郷愁感はだせないように思う。何かの原因が他にあってこの感じがあるはずなのだ。それを直感させるほどに、ここの景色、雰囲気はおかしかった。それが何なのかを確認したかった。
(…この角を曲がるとスーパーと床屋があるんじゃないか?…やっぱり…二つともある。じゃぁそのまま進んだところに…。あった!タバコ屋さん。何なんだ?何で僕は店の場所が分かるんだ?というより、どうしてこの場所に同じものが…)
奇妙な感覚の原因はすぐに分かった。店の名前や形こそ違えど、僕の知っている店の配置となっていた。そう、現実世界で知っている店の配置と。どうしてかは分からなかったが、僕のいた現実世界の街の店の配置にとても似ていた。
(…ということは、さっきの通りをまっすぐに行くと…)
そして、この奇怪な一致を確認した後。僕は心の中で現実世界の地図を広げながら、現実世界での一番の思い出の場所に向かった。
「あ、あった…」
僕が思った通りのその場所にやっぱりあった。形は違っていたけれど、それが伝えるものは同じ、僕の大切な思い出の噴水が、そこにあった。僕はゆっくりと噴水に近づき、その水の冷たさを確かめるように手を噴水の水槽につけた。
「…なんだか、懐かしいな…。」
思わず声を漏らしていた。現実世界での思い出が蘇る。そう、ゲームの中に入ってしまっている今の自分にとって、あちらの世界はもう過去の話になってしまっていた。こちらの世界に入ってもう、一か月が経つとはいえ、17年生きてきた向こうの世界がどんどん過去の事象のようになっていくのは寂しかった。この寂しさすら過去のものになってしまうのだとしたら…。なんて、ガラにもない。僕はとりとめもないことを巡らせながら、ゆっくり噴水の縁に腰をおろした。すると、

「ここ、いいかな?」
いつの間に現れたのか、僕の後方にスーツ姿の男性が立っていた。男は20代くらいで、中背中肉のとりわけ目立った要素のない普通の男性だった。右目だけのスペクタクルをかけ、柴紫仕立てのスーツをラフに着ていたその男は、僕の顔を見ると'ニコッ'と笑みを見せた。僕はとりあえず手で「どうぞ。」と合図だけをして特に気にとめることもなく男が僕の隣に座らせた。男は「ありがとう。」と軽く会釈をした後、縁に腰をかけ、深呼吸し、空を仰ぎ見た。すると周囲の空気が妙に水水しく美しい空気に変わった気がした。僕は、このことを不思議に思い、男の方を向くと、先ほどと変わらず男は優しい笑みを返してきた。男の瞳は深い色をしていた。優しさと厳しさを織り交ぜたイロ…
「君もこの場所が好きなの?」
「えっ…。はい…。」
唐突な男の問いに、しどろもどろになりながら答えた。そんな僕を見て彼は
「いや、いきなりすまなかった。いつもはこの場所に人がわざわざ足を止めるようなことはなかったものだから、気になったんだ。」
「そうなんですか?中々綺麗な噴水だと思うんですけど。」
「ここは、中心地から離れているし、中心地にはこれよりもっと大きく立派な噴水があるから。みんな、敢えてこっちには来ないんだ。俺はこっちの方が気に入ってる。馴染み深くてね。…街の噴水を知らないってことは最近になってここに来たのかな?」
「はい…。だからこの世界のこともあまり知らなくて…。」
男は何故か頷いた。そして僕に言った。
「…やっぱり君が…。いや、失礼。君は現実世界から来たんだね。」
「!!?何でそれを!?」
「ここに住んでいる人が、わざわざここを『この世界』とは言わないよ。それに…」
「それに?」
「俺も、元々は現実世界のものなんでね。」
「ほ、本当ですか!!?」
僕は彼の言葉に飛びかかった。いきなり僕が大声をだしたので、彼は驚いて噴水の水槽の中に落ちそうになった。何とか彼は踏みとどまって、元の姿勢を取り戻した。ちょっと息が上がっている。
「す、すいません。いきなり大声だして。」
「いや、元気があっていいねぇ。アハハ…。俺が現実世界にいたのは本当だよ。まぁ、こんな嘘をつく意味もないけどね。」
「でも、嬉しいです。僕と同じ世界の人がこんなに早く見つかるなんて、このゲームは3本しか出回っていないんでしょう?僕と、僕の父も現実世界の人間なんです。最後の一人にも早く会えるなんて。」
「…。そうだなぁ、世界は案外狭いもんだ。」
と言って彼は笑った。そして僕に手を差し出した。
「俺は旭川渥美(あさひかわ あつみ)だ。よろしく。」
「僕は天上かいむです。よろしく。」
僕は差し出された手を快く握り返し力強く握手をした。これで、また何かこの世界について何か分かるかもしれないし、この世界で向こうの世界の話が出来る人が増えた。僕は正直嬉しかった。嬉しくなった僕は、早速この世界について聞こうとした。
「あの…」

"プルルルプルルル"

僕が声を発したと同時に、携帯電話が鳴りだした。渥美がポケットから携帯を取り出す。
「あっちゃー、もうこんな時間か、これは怒られる…。すまない。俺はもう帰らないといけないんだ。もう少し君とは話したかったんだけどなぁ。まぁ、また何度も会うだろうけど…。」
さりげなく言った、「また何度も会う」に疑問を感じたが、敢えて聞き流した。
「もし、何か聞きたいことがあれば相談に乗るよ。これでも、この世界には中々詳しいつもりだからね。ここに連絡してくれればいい。」
そう言って、渡されたのは喫茶店のマッチ箱。箱の表には「喫茶Gentle」、裏にはその連絡先が書いてあった。
「俺は大概そこにいるよ。俺のやってる店なんだ。客としてでも大歓迎だから、じゃあね!」
「あ、はい。また色々この世界について聞きにいきます。」
渥美は僕の返答にまたニコリと微笑んで走って帰ろうとした。そこで、ふと聞きたいことを思い出して渥美を引き止めた。
「あ、あの!渥美さん!一つ聞いてもいいですか?」
僕がそう呼びかけると、渥美は振り返り僕の方をまっすぐ見た。
「どうしたんだい?」
「もう僕は現実世界に帰れないんですか?」
「…。君はここが嫌いなのかな?」
「いえ、確かに、ここはいいところだし好きです。でも…やっぱり友達もいる向こうの世界に帰りたいんです。」
「…そうか。…帰れないことはないが、今の経済力では到底叶わない。
「…やっぱりそうですか。」
「残念だけどね。まぁ、大丈夫。なんなら俺もまた別の方法を探してみるよ。でも、帰るのにもちゃんと決断しなきゃ。またここには戻って来れないからね。」

"プルルルル"

渥美の携帯がまた鳴る。携帯をまた取り出す渥美。でも、今回は先ほどとは、うってかわって携帯を見た瞬間、渥美は一瞬で青ざめた。そして、鳴り続ける携帯をおそるおそるつなげ耳元にスピーカーを持っていく。

"うhふぃおhふぃうhfゔぃえhgfgv!"

携帯からなにか凄い音が聞こえた。すると、渥美は電話で話しているのにも関わらず頭を下げ、
「申し訳ございません。もう、帰ります。帰らせて頂きます!!」
と全力で謝罪した。何度も何度も電話の向こうに頭を下げながら。そんなやり取りが何度か続いた後、渥美は携帯を切ると同時に走り出した。
「かいむくん!ごめん!もう帰るな!じゃあね!!」
渥美さんの慌てっぷりは相当なものだった。僕は噴水の前で渥美が見えなくなるまでその様子を見つめていた。
「世界に戻らないと…いけなのかな。」
それはある小さな噴水でのことだった。

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