DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 1 Chapter. 9.0

chapter9:読書感想文:

もうすぐ、夏休みが終わる。休みの終わりは(僕には関係ないのだけれど)憂鬱で、気を重くする。でも、夏休みが終わることによって、ようやくうだるような暑さから解放され始めるのだ、これは大いに喜ぶべきことだ。僕は夏があまり好きでないから,夏が終わるのを今や遅しと待っていたわけで、休み終了の沈鬱な気分(あくまで僕は関係ないわけだが)も少しは晴れていた。ただ、それは学校に通っていない人間が言える話で、学校に通っている人はかなり今頃切羽詰まった状況なのだろう。人事だが…。そんな人事も、家族内でその状況が起これば自然と巻き込まれるもので、実際、8月29日現在、状況に巻き込まれているのだった。

「あぁ、どうしよう…」
僕がリビングでのんびりしてたところに、焦りながら独り言を言う舞華が短い距離を行ったり来たりしていた。
「どうしたんです?舞華さん。」
「あ、えっ?あのぅ、兄さん、何ですか?」
焦りすぎて聞いていなかったらしい,いつもは冷静な舞華がこれとは重症だ。
「あっいや…何か焦ってるみたいだったから,どうしたのかと思ったんですけど…」
「えっ!?私そんな風に見えました?」
「アハハ。まぁ、少なくとも僕にはそういう風に見えましたけど。」
「あぁ…そっか、もっと落ち着かないと…。」
「本当にどうしたんです?僕に出来ることなら手伝いますけど。」
「いや、これは、あの、その…終わらないんです。」
「え?」
「終わらないんです。夏休みの宿題が。」
「あれ?でも、舞華さん、毎日ずっと宿題やってたじゃないですか。そんなに量が多いんですか?」
「い、いえ。問題集とかは全部終わったんですけど。…読書…感想文が出来てないんです。」
意外だった。舞華さんは見た目からしても文学少女っぽさを醸し出していたし。実際に本を読んでいるところも、僕は幾度となく見てきたのだ。読書感想文なんて一番の得意分野だと思い込んでいた。
「舞華さんって、本をいつも読んでるじゃないですか。」
「そうなんですけど…。あ、あの私って…。」
言いかけると、なぜか舞華は顔を赤くして伏せ目がちになった。
「あの、舞華さん?」
「えっ!?あ、あのぅ…。私ってかなり読むジャンルが偏ってて、ファンタジーものとか…恋愛ものが好きなんで…。学校の指定文庫本はどうしても感想が書けなくて…」
ますます意外だった。僕はてっきり明治時代の偉人らが書いたような文学作品を読むものだと思っていた。でも、舞華は年相応の女の子の読み物を読んでいるわけで、今までのは単なる僕の先入観だったようだ。
「そうなんですか…でも、もう舞華さんはその本を読んだんでしょう?」
「あっ、はい、三度ほど。」
(んっ?三度?結構読んでないか?)
「…その時、出てくるキャラクターに対して共感や反感した所が1つや2つはあるでしょ?」
「ま、まぁ、いくつかは…。」
「その部分をピックアップして自分と対照させて、本のキャラクターの行動と、その時の自分の考えを書いていけば良いんですよ。」
「そうしようとは思ってはいるんですけど、書き出しが上手くいかなくて、そのまま全体のバランスを崩してしまっているような気がするんです。」
(んん!?なんだか、普通のかけないとは系種が違う気が…)
でも、確かにそうだ、舞華は、ジャンルはどうあれ、僕より本が好きで多く読んでいるんだから、当たり前の助言等は必要ないだろう。ただ、そうなると、助言してくれと言われても見てみないことには、どうこう言えない。見たところで、講釈を垂れれるかは別として。そんなことを考えていると、舞華が僕の方をじっと見つめてきた。
「な、なに?」
「あのぅ、もし良かったら、宿題…手伝ってもらえませんか?」
「えっ!?い、いいですけど。僕そんなに感想文得意なわけじゃないですよ。賞なんて獲ったことも無いし。」
「話し相手になってもらえるだけでも良いんです。一人だと混乱して何も出来なくて…。」
「…そういうことなら。」
何となく、舞華の態度に違和感も感じたが、ここは素直に舞華の提案を受けることにした。あの、舞華が何か裏を持って接するはずが無い。確かに、この流れは舞華が意図的に仕掛けたものだと感じないことは無かったけれど。

とりあえず、宿題するために舞華の部屋に入った。舞華の部屋は想像通り本棚がたくさんあって、その棚には隙間無く膨大な数の本が並んでいた。どちらかといえば、女の子らしい部屋ではない。しかしながら、本棚の背表紙を見るとファンタジーもの、そしてそれよりもっと多い恋愛ものが置いてあった。しばらく、本棚に並んだ、本を眺めていたが、いくら兄といえども物色しすぎるのもアレなのでやめておいた。
「あ、ここに座って下さい。」
ボウッと立っている僕に、舞華は座布団をカーペットに敷き、手でどうぞと座るように促した。僕が座ると、舞華は立てかけてあった折りたたみ式の机を持ち出してきて、僕の前に置いた。舞華はそのまま、僕の机を挟んで真正面のところに座った。舞華の顔が嫌でも目にはいるので、むやみにドキドキしてしまう。
「あの、一応こんな風に書いてみたんですけど。見てもらえます?」
少々緊張気味の僕に対し、舞華は落ち着いた様子で僕に原稿用紙を手渡す。僕は、情けない胸の鼓動を必死に抑え、渡された原稿用紙を読んでみた。

「…………。」
上手い、こんなに上手い感想文は初めて見る。感想文で表彰されるものがあるとすれば、こんなものが表彰されるのだろう。そう感じずにはいられないくらい、流れが自然でいて、難しくなく、単語の多用をしない。ここまで、上手いと、逆にどうしたらここまで書けるのかを教わりたいくらいだった。しかし、それじゃあ、こんなに上手いのにどうしてかけないと言ったのだろうか…。とにかく、10ページにも及ぶ感想文を一気に一通り読み進めた。十分くらい経って、ようやく、流し読みではあるが読み切った。僕が顔から原稿用紙を遠ざけると舞華が不安そうな顔つきで僕を見て尋ねた。
「…どうですか?」
どうですかと尋ねられたら完璧ですと言いたいくらいの出来の作品に、僕は一時回答に困った。荒を探すために来たのに、これでは全くの役立たずである。だからといって、悪いところを捏造するのも意味が無い。仕方なく、僕は、読んだ感想を彼女に素直に吐いた。
「上手い、上手いです。僕ならこれに大賞をあげちゃいますよ。」
「…そ、そんな、お世辞なんて言わないで下さいよ。本当に下手なんですから。」
「お世辞なんかじゃないですよ。本当に上手いんですから。」
「やめて下さい。照れます…。あの、ここなんかどうですか?この文おかしくないですか?」
「えっ!?…そうですか?僕はこのままでも…。」
 僕は、これ以上、加勢することは出来ない手直しを舞華主導のもと、始めた。
 はずだった。

***

「もうすぐ夏祭りがあるんだぁ。」
話はいつの間にか世間話に変わり、また今度の夏祭りの話に切り替わっていた。というより、感想文の話をしていたのは初めの十数分だけで、そこからずっと雑談をしていた。よくよく考えて見れば、本の嫌いな人でもなんだかんだで感想文を書き上げれるのだ。ジャンル外とは言っても本の好きな人が書けないはずが無い。舞華にしてやられたのかもしれない。でも、何の目的でこんなことをしたのだろうか。夏祭りの話題なんて普通に声をかけてくれれば良かったのに…。
「そうなんですよ、明後日に。結構、大掛かりなお祭りなんですよ。花火もあがりますし。」
「へぇ、何か面白そうですねぇ。舞華さんは行くんですか?」
「はい、毎年、楽しみにしていますから。この地域の学生はこの日を楽しく過ごすために、宿題を8/30までにすませようとするんです。それで終わらなかったら、せっかくの夏祭りに行けませんから。」
「そうですね、学校側からしたら宿題忘れをなくす特効薬って感じですか。」
「あはは、そうですね。で、あのぅ。」
「?何ですか?」
「一緒に行きませんか?夏祭り。」
「あ、あぁ。別に用が無いからいいですよ。」
僕がそう答えると、舞華は安堵したようで、ホッと胸を撫で下ろしたようだった。
「本当ですか?よかった。それじゃあ、これ、出店の1000円券です。」
そういうと、舞華は舞華の机からごそごそと取り出したオレンジ色の100円*10枚のくっついた紙を渡してきた。これは、もともと、僕が来ることを数に入れていたようだ。
「ありがとう。ありがたく頂いておきます。」
「はい、喜んでもらえてよかった。兄さんが来るかもしれないと思って、一つ多くもらっておいたんで。」
「わざわざ、すいません。何だか楽しみになってきたなぁ。」
「明後日の17時に、家を出ましょう。18時には本格的にお祭りが始まりますから。」
「分かりました。夕方の5時ですね。」
「はい。あ、もうこんな時間、ずいぶん話し込んじゃいましたね。そろそろやめにしましょうか。」
舞華はあくまで、読書感想文の推敲をしたという前提で話を打ち切った。結構、舞華さんは計算的なのかも…。
「そうですね。」
僕も、敢えてそこには触れず、座布団立ち上がった。ラフな感じに座っていたので、足にしびれは無い。きっと、本気でずっと宿題をしていたら今頃、立てなくなっていただろう。そんなことを思うと思わず苦笑してしまう。
「?どうしました、兄さん。」
「いや、何でも無いですよ。それじゃ、明後日楽しみにしてます。」
僕はそういって、舞華の部屋から出ようとすると、舞華が僕を呼び止めた。

「兄さん。」
「何です。」
「我が儘に付き合ってくれて、ありがとうございます。」
「…いいよ。別に何もしてないし。」
僕はそれだけいって部屋を出た。最後の彼女の言葉は、宿題をすると言ったのに雑談が目的だったことへのものだろうか、夏祭りに誘ったことだろうか、どちらかは分からなかったが、今日は舞華のペースで進められた感じだった。どうして舞華がそんなことをしたのか…、いや、これを考えてしまうと自意識過剰だな。

僕は頭をブンブンと振ると、自室に伸びをしながら戻った。僕は、勉強会の後の舞華の顔がとても嬉しそうな笑顔だったのを覚えている。

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