DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 1.0

幸せの形は人それぞれだ。
形が様々だから、人はいろんな幸せにたどり着くことが出来る。
でも、形が様々だから、自分の幸せが他人に認めてもらえないこともある。

みんながいろんな幸せを手に入れたいと思っている。
だからこそ、みんなは自分の幸せを手にいれるために障害になる形の幸せを折り曲げてしまう。

全ての幸せは実現しないのだろうか?
全ての幸せがパズルのように結びついて綺麗な形で収まることはないのだろうか?

もし、全ての幸せが成り立たないのなら…
今の僕の幸せは誰かの幸せを壊してしまっているのかもしれない。
もしそうなら…、僕はどうすればいい?
全てをとることは本当に出来ないのか?

Dream Presenter side of Kaimu Tenjo Volume 4
chapter 1.0: 12月27日:

クリスマスから二日。美良と舞華はクリスマスを境に元気を取り戻し、二人の仲も以前に比べ良くなっていた。この調子で、昔からある二人の間の溝も埋まっていって欲しいものだと思う。一方、僕の方はというと美良と付き合うまでは良かったのだが…よく考えるとゲームの中にある未解決の謎がまだまだあって頭をかかえるとまではいかないものの、まだまだ心が晴れた状態とはいかなかった。

12月27日 PM 1:13 昼食を終えた僕は、美良が忙しなく何かの支度をしているのを見かけて声をかけた。
「美良、何してるの?」
今までなら、こんなに気楽に話しかけることなんて絶対出来なかった。忙しいところを邪魔して声をかけたら、もれなく美良のストレートパンチがついてきた。それが今では、普通に言葉が返ってくるのだ。…いや、そもそもの基準が低すぎるのは分かってるんだけど…。
「何って、Gentleのバイトよ。」
「あぁ、そっか。…そういえば、最近休業だったんじゃ?」
「あれは、私も理由を聞いてないの。『しばらく休業するから、バイトはしばらく休みでお願い。』としか言われなかったし。昨日、電話で再開したって連絡があったから今日は行くんだけどね。」
「そうなんだ。なら、僕も、Gentleに行こうかな。」
「なんで、あんたがついてくんのよ。」
「付いていくんじゃないよ。話をしに行きたかったのに開いてなかったからね。」
「なんの話?」
「渥美さんに、現実世界に戻る手立てとか、いろいろこのゲームの中で起こった不思議なこととかを相談してたんだ。その話。」
「現実世界に戻るの?」
美良の発する声が突然鋭くなる。やっぱりか、と思って慌てて僕は先程の発言を訂正した。
「いや、今すぐ帰りたいとか、将来帰るとか、そういうことは考えてないよ。ただ、やっぱり、このゲームについていろいろ知っておきたいからね。」
「そう。じゃあ、一緒に行く?」
「うん、すぐ支度する。」
ほんと、変わるものだな。そんなことを嬉しく思っていたのもつかの間、
「さっさと支度しなさいよ。にやけてるわよ。」
まぁ、いつも通りというのが一番いいのかもしれない。僕は、自分の部屋に戻って急いで支度すると美良と一緒に Gentle に向かった。

"カランカラン"

久しぶりの鐘の音にちょっとした懐かしさを感じながら、Gentle の店のドアを開くと、店の奥から女性の声がした。
「いらっしゃいませ。」
そんなに会っていないわけでもないのに会えない時に会えなかったこともあってか、ひどく久しぶりのような感じがした。ただ、その懐かしさも、ある違和感からすぐにかき消された。違和感は二つあった。一つは、「いらっしゃいませ。」と言ったのが恋さんであったこと、いつもならば、雫がドア前までかけてきて席へつれていってくれるのだが、今日はそれがない。二つ目は、恋の声に張りがないことだ。美良もすぐにこのことに気づいたのか、僕が美良に目配せすると、美良も心配そうな顔をして頷いた。僕らは、とりあえず、店の中に入った。
「あっ、かいむ君、いらっしゃい。美良ちゃん、今日は急に仕事を入れてごめんね。」
恋は、入ってきたのが僕たちと分かると、ニコッとこちらに微笑みかけて言った。しかし、その顔はどこかひきつっていた。
「こんにちは、店長。すぐ支度してきますね。」
「うん、よろしく。」
「あの…店長、何かありましたか?顔色が悪いですし…雫ちゃんもいないですけど…。」
「えっ!?私は何も無いよ、元気元気、ハハハ…。えっと、雫ちゃんは少し体の具合が悪いから休んでもらってるんだ。」
この人も嘘がつけない性格らしい。何かあったことがバレバレだ。美良も、嘘だということには気づいているだろうが、「そうですか。」とだけ言って、敢えてそのことに触れず更衣室にいってしまった。
「今日は、かいむ君が初めてのお客さんだよ。みんな、年末で実家に帰ったりして忙しいのかなぁ。ここは、常連さんが多いから、その人達が来てくれなかったら、こういう年末になるとこうなっちゃうんだよ。それに、このまえ臨時休業しちゃったから、来年まで、開かないと思っちゃったのかな…。」
僕に言うとも、独り言とも分からないように、恋は呟いた。とにかく僕は、恋に言葉を返しておいた。
「大丈夫ですよ。おやつ時になれば、また来ますよ。」
なんて役に立たないフォローを返してはみたものの、ここから話題が広がるはずもなく、代わりに重たい空気が広がってしまった。
「…あー、渥美さんは、今、お忙しいですか?」
「えっ、うん。大丈夫だよ。渥美の描いてた漫画、この前で一度終わったから、今は少しの間空いてるよ。居間にいるから上がって。」
「ありがとうございます。それじゃあ、お邪魔します。」
「あっ、かいむ君!」
「はい、何ですか?」
「美良ちゃんのこと…ありがとうね。」
「!?えっ!!?あ、はい!!」
恋には、そんなこと何もいっていないのに、いきなりそこに突っ込まれて驚いた。
「かいむ君も美良ちゃんも顔に出やすいからね。分かっちゃった。」
今の、あなたに言われたくないです。と言いたいところだが、そんな傷心中の恋にも悟られてしまうとなると余程分かりやすいのだろう。注意しないと…。僕は、これ以上いろいろ聞かれるのも恥ずかしいので、軽く会釈して居間に上がった。

「お邪魔しまーす。」
「はーい、どなたですかー。」
そう言って、奥から出てきた渥美は、いつも通りパーカーにジャージとラフな格好をしていた。が、怪我をしているのか左手に包帯を巻いていた。
「あぁ、かいむ君。こんにちは、どうしたんだい?」
「少し話したいことがあって…」
「悩み事…では、ないようだね。あがってくつろいでおいてくれ。俺はコーヒーを淹れてくるから。」
「いや、いいですよ。怪我してるみたいですし、無理しなくても。」
「いやいや、大丈夫。ちょっと待ってて。」
そういうと、渥美は店の方に小走していった。走る最中も、左手は地面に垂直にぶらさげていたので、まだ傷が痛むのだろう。無理をさせてしまったことに反省する。と同時に、

"ガタン"

大きな音をたてて襖が開いたので、僕はビクっと身震いしてしまった。何だ!?と開いた襖の方を警戒していると、そこには、ぼんやりとした表情をした雫がそこに立っていた。恋が、言っていたようにいかにも体調が悪そうな感じだった。
「し、雫ちゃん?」
声をかけられてようやく僕がいることに気づいたのか、ビクっと体を震わせて僕を見た。
「ふぇっ!?…あっ、お兄さん。…こんにちはです。」
「体の具合が悪いそうだけど、大丈夫?」
「えっ!?あぁ、雫は大丈夫ですよ。今からお店のお手伝いに行こうと思っていたところです。」
「あんまり無理しない方がいいよ。顔色悪いよ。」
「大丈夫!!大丈夫ですよ、お兄さん!!雫はバッチリ元気です!」
「…そう、それならいいんだけど。」
「じゃあ、お兄さん、私はお手伝いに行きます。お兄さんは、ごゆっくりどうぞです。」
「あぁ、ありがとう。」
そう言って、そのまま雫は店の方に向かってしまった。臨時休業の間にGentleに何かあったことは間違いないようだ。恋、雫の傷心と渥美の怪我、理想郷のこの世界で何が起こったのかは分からないが、単純に「二人のせいで渥美が怪我をした」で、済むような話ではなさそうだ。雫が店の方に行くのと入れ違って渥美が居間に戻ってきた。渥美も店に出た雫の事を心配しているようで、店に続く廊下の方を見つめていた。渥美はしばらくそうしていたが、自分が今何をしている最中かを思い出して、苦笑いしながら居間に入ってきた。
「お待たせ。はい、ブレンドコーヒーだよ。」
「ありがとうございます。」
左手が使えないようで、おぼんをちゃぶ台に置いてから右手だけ使って、僕の方にカップを渡した。
「左手…どうしたんですか?」
「あぁ、少しとちってね。思いっきり打ち付けちゃって左手だけ安静にしとかなきゃいけなくなってね。」
「ひどいんですか?骨が折れているとか。」
「いや、大丈夫。もうしばらくしたら、動かせるようになるよ。まぁ、完治するには時間がかかるだろうけどね。」
「そうですか…。僕に出来ることがあれば何でも言って下さい。手伝いますから。」
「そんな、大袈裟な。大丈夫だよ。」
「いえ、渥美さんには、いっぱい助けてもらいましたから。今日ここに来たのも、そのお礼も兼ねて来たんです。」
「お礼?」
「僕なりに、この世界や、この世界で生きる人と、どう接していくのかを決められたんです。それを考える上で、渥美さんからもらった言葉が僕を助けてくれた。だから、お礼をと。」
僕の言葉に、渥美は合点がいったような顔で頷いた。そして、ミルクと砂糖を入れたコーヒーをティースプーンでかき混ぜながら答えた。
「なるほど、美良さんが元気になってたのはそのせいか。俺は、何もしていないよ。確かに、俺はかいむ君に好き勝手話して聞かせたけど、かいむ君が選んだんだ。かいむ君は自分をもっと評価していい。俺の方こそ、かいむ君を見ていて、忘れかけていた昔の自分を思い出せたよ。ありがとう。」
「そ、そんな。こっちが、お礼を言う側ですよ、ありがとうございます。」
お礼を言い合って、気恥ずかしくなったのか、互いにコーヒーを啜って小休止を入れる。
「まぁ、これからが本当の戦いなんだけどね。ゲームや、漫画、ドラマでは、ここに来るまでがよく描かれるけれど、自分の気持ちに気づくこと以上に、自分の気持ちを維持すること、守っていくことの方がずっと難しい。しかも、それが、この仮想世界の中なんだから生半可な気持ちじゃもたない。」
「はい、分かっているつもりです。」
強く出すぎたかと思って、僕は、またコーヒーカップに口をつけた。
「はは、頼もしいな。それでも、きっといつかは、また悩むことがあるかもしれない。その時は、俺は君を後押しするつもりだよ。だから、これからももっと頼ってくれ。」
「渥美さんは、どうしてそんなに僕のことを?」
「…、信じたいからかな。かいむ君みたいに、輝いた目をした人が、真剣に悩んで苦労して行き着いた先は、きっと明るい世界だとね。はは、押し付けがましいけどね。」
「失礼かもしれませんが、渥美さんは、自分で目指していないんですか?僕から見たら、渥美さんだって、輝いた目をしていて、夢に向かって頑張っている人だと思います。」
「ありがとう。そう見えているなら、これほどありがたい事はないよ。…そうだね、俺も夢に向かっている最中さ。…恥ずかしい話だけどね。俺は、DreamPresenterになりたいと思っているんだ。」
「DreamPresenter?」
「人に夢を与える者。そのままの意味だよ。俺はね、世界中の人に夢に向かってもらって、その夢に邁進して欲しいんだ。人は、夢を持つことで輝きを増す。その夢が叶ったとしても、叶わなかったとしても、大きなことでも、小さなことでも。俺は、その輝きで世界を埋め尽くしたい。きっと、その輝きの先に、人にとって、そして全存在にとって笑顔でいられる世界が、満たされた世界があると…信じているんだよ。」
「…」
「あはは、おかしいだろ。この世界にきて、高らかにこういうことを叫んでいるだけじゃ、何も解決しないのに。」
渥美はそう自嘲すると、残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
「そんなことないですよ。僕は、今まで、そんなことを目標にする前に諦めていました。できない…とも思いました。でも、何と言うか、仮想であっても、この世界にきて、この世界にふれて、『決めないと歩けない。』『立ち向かわないと進めない。』と少しは思えるようになりました。きっと、渥美さんみたいに、挑まないと変わらないと思うんです。」
「かいむ君…。」
「すいません、偉そうなことを言って…。でも、僕は今まで周囲に流されるばかりで、それでいて自分に不満を持ち続けていました。でも、踏み出せば変わるということが、この世界に入って分かったんです。だから、僕は、渥美さんのことを尊敬します。」
僕から、ここまで言われるのは想定外だったのか、渥美は嬉しそうにしながらも、髪や顔をかいて恥ずかしさを紛らわしていた。
「褒められすぎて、むず痒いな。」
「渥美さん、僕も目指していいですか?DreamPresenterに。何をしたらいいか、まだ全然わからないですけど、僕も渥美さんが夢見た先の世界を見てみたいです。」
僕がそう言うと、渥美は、始め面食らったようだったが、すぐに、笑顔になって僕の方をぽんぽんと叩いてくれた。
「ありがとう。そういう人を増やすことこそがDreamPresenterを目指す俺の夢なんだから。」
DreamPresenter、渥美さんの熱い言葉に浮かされてなりたいと思ったのか、これからの自分を変える魔法の言葉と思ったのか、本当にそうなりたいと思ったのかは、まだ分からなかったが、少なくとも僕の中で、なにか新しい一歩を踏み出すための布石になったような気がした。

そう思った矢先の事だった。

キャー!!!

店の方から叫び声が聞こえた。声からして、恋の声だ。僕と渥美は、すぐに立ち上がると急いで店の方にかけた。すると、そこには、慌てふためく三人の店員(恋、美良、雫)と天井に届くかというような火柱をあげているコンロがあった。
「皆、大丈夫か?」
渥美がそう叫ぶと、恋が、コンロの方を指さして、
「あ、渥美、コンロ、コンロが!」
と言うばかりだった。そうとう慌てているようだ。僕は、辺りを見回して消化器を探すものの見当たらない。と、同時にあることに気がついた。美良と、雫がいない。
「美良!!?雫ちゃん!!?」
急いで、二人の名を呼ぶと、
「かいむ!」
と美良の声が聞こえた。声のする方に目をむけると、煌々と燃えているガスコンロの前でうずくまって震えている雫と、雫を何とかコンロから離れさせようとする美良の姿があった。これはまずい状況だ。
「渥美さん、消化器は!?」
と急いで消火活動に移ろうとした僕に対して、渥美が返した言葉はよく分からないものだった。
「いや、ちょっと急がせてもらう。」
渥美は、店の水道の蛇口をめいいっぱい開いた。
「渥美さん!!?水じゃダメです!!」
皆、目を瞑ってろ!!!
僕の叫びと同時に、渥美は叫んだ。渥美の言葉に、皆、反射的に目を閉じる。すると、

"ザパーン"

波が海岸に届いた時のような大きな水音がした。何が起こったのかと、僕が目をゆっくり開くと、そこには何故か鎮火したコンロと、びしょ濡れになった美良と雫の姿があった。
「え…、なんで?」
「油火災に、水がダメなのは、水をそのままかけるからでしょ。窒息させれば問題ない。」
渥美は、それだけ言うと、コンロのスイッチを切った。
「大丈夫かい?ごめんね手荒なことして。」
びしょ濡れになった二人はワケも分からずコクンと頷く。
「恋、バスタオルとお風呂の用意してくれる?あと、今日も臨時休業ってことで。」
「えっ!?あ、うん分かったよ。」
渥美さんに言われるままに、恋は、居間の方にかけていった。
「客がいなかったのは、不幸中の幸いだったな。」
渥美さんの言葉に、雫は申し訳なさそうな顔をして謝った。
「ごめんなさい。」
「ん?」
「私が、ボケッとしてたからいけなかったんです。フライパンに油をひこうとしたら、誤って油を火にこぼしてしまって。驚いた拍子に油差し毎放り投げてしまって…。」
「そんな、気にしなくてもいいよ。誰も怪我をしなかったわけだし。」
「でも、でもぉぉ…」
感極まったのか、雫は、美良に抱きしめられながら、おんおんと泣いてしまった。これには、渥美も、どうしたらいいのか困ってしまい。頭を優しくなでるばかりだった。
「俺たちは、家族なんだから気にしないで。もっと気にせず、迷惑をかけてやるぞって気持ちぐらいでいてくれたらいいんだよ。誰だって失敗するもんなんだから。」
「家族…、ふぇっ…店長さぁん…。」
今度は、家族という言葉に、反応したのか、また大きく泣き始めてしまった。
「さぁ、風邪をひく前に体を拭かないとね。美良さんもごめんね。」
「いえ。大丈夫です。ありがとうございます。」
そう言って、三人は、居間の方にいってしまった。僕は、さっき起こった一連の謎についていけないまま、そこに突ったっていた。渥美さんが、あの状況からどうやって、コンロを鎮火させたのか。Gentleに何が起きたのか。この世界の残りの疑問を少しでも解決しようと思ってここに来たのに、いくつもの疑問点がまた浮かび上がってしまった。と、また僕が、思考の波にトリップしようとしていた僕はあることを思い出す。

"カランカラン"

「え?まだ、ここって営業中になってるんじゃ。ちょっと、渥美さん!!恋さーん!!」
客が来たことで、一気に我に帰った僕は、慌てて渥美と恋を呼びに行くのだった。

そう、謎はいつか分かることだ。渥美さんに聞けば、すぐに分かることだ。

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