DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 10.0

chapter 10.0: 夢の終わり、現実の始まり:

改めて僕は母さんと対峙した。僕は、母さんをひしっと見つめ気圧されないようにしている。恋さんが手伝ってくれたおかげで今までは何とか逃げまわってこれたが、こうなってしまってはもう戦うしかない。例え、勝ち目のない闘いだったとしても。
「かいむ、諦めなさい。もう逃げることはできないんだから、今なら許してあげる。」
「嫌だ!僕はここに残らなきゃいけないんだ。」
「どうして、そんなにムキになるのやら…。」
母さんは、理解出来ないというように、深く溜息をついた。

母さんは戦う意志を表した僕を見ても歯牙にもかけなかった。
「ゲームが有害だっていう人の気持ちが分かったわ。ここまでのめり込んじゃ人生を台無しにしちゃうわね。」
「確かに…ここはゲームの世界で、彼女たちはプログラムの中で動いているだけかもしれない。でも、逆にプログラムの中で彼女たちは自分の意志で選択している、感情を示してる。人間と同じように!」
「はぁ、ここまでくると、もう駄目ね。やっぱり現実に帰って現実を見なおしたほうがいいようね。」
「ここだって、一つの現実だ!!」
「…、どうしてそんなに必死なの?元々、現実に戻りたいと思っていたんでしょう?現実を捨てて、ここで得られるものって何?」
「分からない。でも、現実でだって結局得られるものは分からない。」
僕は叫んだ。その様子を見ても母さんは白けていた。美良と舞華は僕の服の袖をぎゅっと掴み直し、僕を見つめたいた。

そして、母さんは白けた表情のまま、淡々と僕を口撃した。
「くっだらない。」
「くだらない…?」
「現実で嫌なことがあって、ここいい事があった。だから逃避してこの場所を選んだ。それを正当化するために、いろんな理由を並び立てる。それだけでしょう。」
「そう思われるかもしれない。でも、僕はこの意志を貫き通すと決めたんだ!」
「理想と現実をまぜこぜにしちゃうのは妄想の中だけにして欲しいわね。…あっ、ここはゲームの中だし、それもいいかもね。」
そう言って母さんはケラケラと笑った。もうこの時点で、僕は母さんはバグに侵されていると確信した。母さんは厳しい人だったが、人を明確に馬鹿にするような態度を取らなかった。僕は、改めて意志を固くし母さんに叫ぼうと思った。
「笑うな!!」
しかし、僕が叫ぶ前に叫び声をあげたのは美良だった。美良は、僕の服の袖を掴みながら、必死に大声で叫んだ。
「かいむはね。私を助けてくれたの!支えて来てくれたの!否定するだけ何もしない、わが子の気持ちを分かろうともしないあんたなんかの妄想と一緒にしないで。」
「美良…。」
「そうです!私達の望むものは理想のまま終わるかもしれません。でも、私たちはできると信じて生きているんです。辛いことや悲しいことがあったって諦めたりはしません。諦めません!兄さんの母親かもしれませんが、あなたは兄さんを現実に引き戻して何がしたいんですか?自分の気に入らないものを否定して、環境だけ変えれば万事解決すると思っているのはあなたじゃないんですか。兄さんは、必死に悩みながら、この世界を選んでくれたんです。単なる妄想だなんて言わせません!」
「舞華…。」
美良に続けて、舞華も母さんに必死に叫んだ。二人が必死に僕を応援してくれるのがすごく嬉しかった。一方、二人の言葉を受けた母さんは、明らかに不機嫌そうな顔をしてギリギリと歯を鳴らした。
「…はぁ、若いというか…これだから現実に目を向けない理想主義者は困るのよ。やればできるなら誰も文句なんて言わない。ただ頑張りましたじゃ、何も変わらないし、寧ろ邪魔よ。熱い気持ちもいつかは冷める。だから、かいむも現実からここに気持ちが移ってしまった。高々、半年で今までの気持ちが変わってしまう。それを見ても信じ続けられるって言うの?本当にあなた達はノーテンキね。」
「だからって、ハナから諦めてて何もしない、あんたに言われたくわないわよ。」
「ワーワーうるさいのよ。これ以上は無駄ね。じゃあ、現実というものを見ても、そう言ってられるかしら。また高いところから落ちてみる?」
母さんのその一言に僕らは耳を疑った。
「な…今何て?」
「あなたが間抜けな顔して、かいむから逃げてるから、そのまま逃げ切れるようにフェンスを壊してあげたのに、かいむまで巻き込んで落ちちゃって。」
母さんは、そう言って、またケタケタと笑った。
「何笑ってんのよ。あんたのせいで私とかいむは死ぬところだったのよ!!」
「あんたが逃げたそうにしていたから助けてあげたんでしょう?望みを叶えてあげたのに。」
「…理解できない。」
「そういえば、あなたにも前に会ったことあるわね。」
美良が睨み付けるのをよそに、今度は舞華の顔を見て母さんはそう言った。母さんの言葉に舞華は困惑した。
「会った?私には覚えがありませんが?」
「ずっと昔だったわね…私にやかましくクラクションを鳴らしてくる車を、ちょっと壊してあげたら、その車が暴走しちゃって…。その車が走ってった先にいたのが、あなたじゃなかったかしら。」
僕らは、その発言を聞いて呆然とした。
「ほら、この世界って場所によっては車通れないようにしているし、ほとんど車も通らないじゃない。なのに、あの車急いでるのかクラクションを鳴らしてきたから、ついカッとなっちゃったわよ。あはは。」
この犯罪のない世界であって、八月一日悠輝(ほづみゆうき)が轢かれるなんて事件が起こることにはずっと疑問があった。でも、まさか、母さんが関わっていたなんて…。いくらバグだと言っても母さんが人を傷つけたり、間接的に殺したりしたなんて…。横目に舞華と美良を見た。二人は、目を点にしてわなわなと震えていた。

母さんが八月一日悠輝を殺したという衝撃の告白に、美良と舞華は激昂した。
「あなたが!あなたが悠輝を殺したっていうんですか!!?」
「ん?あー、一緒に男の子もいたわね。別に私は殺そうと思ってないわよ、車を少し壊しただけ。」
「殺してるんじゃない!あんたのせいで!あんたのせいで悠輝は!舞華は!私は!!!」
「あなただけは許せない。絶対に許さない。」
「許さなければ何をする気?そもそもゲームのキャラに許されなくても結構よ。」
うわぁぁぁぁぁぁ!!
母さんの言葉に触発されて舞華がいきなり母さんに向かって突進していった。
「舞華っ!!?」
僕は驚き思わず手を伸ばすが、舞華は脇目もふらず母さんに向かっていた。そしてビンタをするように手を振り上げ…。
きゃぁぁぁぁ!!?
手を振り上げたかと思うと母さんはその手を難なく掴み、舞華の走ってきた力を利用して舞華を背負投げた。舞華の体は空を一回転しレンガ畳の床に叩きつけられる。
「信じていれば、諦めなければ…、その結果がこれ?惨めね。」
舞華は、打ち付けられた痛みと衝撃で声も出せずつらそうにしていた。
舞華っ!!
僕は、母さんを睨みつけるが母さんは冷たくこちらを見るだけだ。舞華は、悔しさから涙を流して歯を食いしばっていた。

「じゃあ、もっと現実を見てもらいましょうか?神壱、京、この子の記憶を消しなさい。」
母さんは非情にそう言った。僕は、一瞬きょとんとしたが、すぐにハッとして今まで何もしてこなかった尾高と京の方を見た。想像通り、二人は既にいなくなっている。辺りを見回しても二人はいない。
「しまった。美良っ!!」
「えっ!!?」
僕が何かに気づいて叫んだ時には遅かった。突然、美良の背後から京と尾高が現れ、美良を羽交い絞めにした。僕も美良の手を取り離すまいとしたが、母さんが僕の腕に小さな瓦礫をぶつけた衝撃に負け、僕は手を離してしまった。
美良っ!!
かいむっ!
僕の叫びが虚しく響くと、京は申し訳なさそうに僕を見て一言呟いた。
「ごめんなさい。お兄ちゃん。でも、私はお兄ちゃんに現実世界に戻って欲しい…家族一緒にまた暮らしたいの。一から…。」
京が手に力を込めるのが分かった。そして、それが仕組みはわからなくても美良の記憶を奪う作業であることが分かった。
お願いだ、やめてくれぇぇぇぇ!!!!!!
僕の叫びが虚空に消えた。京が手を話すと美良はぼんやりとした表情で力なく立っていた。
「なぁ、美良!?僕が分かるか?かいむだ、天上かいむだよ!!なぁ!」
美良は、今自分に何が起こっているのか分かっていないというふうな表情で首をかしげた。
「…かい…む?」
「そう、美良!僕だよ。」
「かいむって、あなたのことですか?すいません、今ちょっと記憶が混濁していて、何が起こっているのか把握できないんです。」
「嘘…だろ…?」
僕は、美良が本当に記憶を失ってしまったのを確認して何も言えなくなってしまった。こんなに、こんなに自分は無力なのかと自分を呪った。守ると約束をしたのはほんの1週間前、これほどまでに自分は何もできない人間なのか?約束は嘘だったのか?僕は美良の肩を抱き美良を揺り動かすが、美良は分からないといった様子で力なく揺られるだけだった。
「分かった?これが現実よ。これでも、まだこの世界に残りたいの?」
「返せよ…。」
「…。」
「返せ、元の美良を返せよ!!!」
「呆れた…。まぁ、そうなると思ったけど…。京、かいむの記憶も消して。」
母さんの言葉に、ますます僕はぎょっとした。僕の記憶が消える?僕は何も出来ないまま、気づけば母さんに回りこまれて羽交い締めにされ、京に手を握られていた。
「お兄ちゃん。心配しないで、現実世界の記憶は残すから、また一から始めよう。家族一緒に。」
「京!!やめろ!僕は、僕はこんなことを望んだんじゃない!!」
「京、早くしなさい。記憶を消し次第、かいむを現実に戻す。」
僕はただ叫んだ。何を言ったのか覚えていないくらい必死に、でも僕の叫びも単なる騒音に終わった。

そして、目の前が真っ白になった。

***

「あれっ?僕は寝ちゃったのか?」
僕は部屋の布団の中にいた。頭が痛い寝過ぎたのだろうか。寝起きなせいか眠るに至った経緯を思い出せず、僕はとりあえず、目覚まし時計の時刻を見た。
「一月一日の一時!!?」
あれ、クリスマスだと思ったんだけど…なにしてたんだっけ…。思い出そうにも思い出せない。
「なんだか、目茶苦茶損をした気分だな。そういえば、宿題とかどうしてたんだっけ?」
僕は、ベットから起きて机の引き出しから冬休みの宿題を取り出すと、そこには空白のプリントの束があった。
「えっ、ちょっと待ってよ。何してたんだっけ?あーもう、来年は受験だっていうのに…。これって病院に行ったほうがいいのかな。」
夢遊病を体験した気分で、僕は混乱した頭で必死に状況を整理する。とりあえずは状況確認だ。僕は、家の中の状況を確認しようと決めた。その時、

"ブーブーブー"

僕が机の上で充電しっぱなしで放置していた携帯電話が音をたてて鳴り始めた。

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