DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 2.1

chapter 2.1: 12月28日(前編):
「「「カンパーイ!!!」」」
歓声とともに、「カンッ」とグラスがぶつかる音が響く。

12月27日 21時過ぎ、喫茶Gentle店内。
普段、シックで落ち着いた雰囲気の店内は、まるで居酒屋のような活気で満たされていた。通常、この時間は、もう閉店時間を過ぎているのだが、今、こんなに賑やかなことになっているのは、桐生家、Gentleメンバー、+凪で忘年会をしているからだ。僕は、この世界に来て初めての年末だから知らなかったが、この忘年会は、毎年恒例の行事で、年毎に喫茶Gentleと桐生家で主催場所を交代しながら行っているらしい。そして、今年は、喫茶Gentle主催の忘年会というわけだ。昼間、火事になりそうになった騒動もあって、一時はしんみりとした空気が流れたGentleだったが、忘年会となれば話は別だ。テーブルには、色とりどりの美味しそうな料理が並べられ、店内には綺麗な装飾が施されていた。渥美さんは父さんと気兼ねなく酒を酌み交わしあい。恋さんは美華さんと、わいわい話しあっていた。

因みに、桐生家にも、Gentleにも属していない凪和笠が、どうして忘年会という閉じた行事に参加しているのかと言うと、「舞華と一緒に忘年会をしたい」というのと、「渥美の漫画の分野に興味があった」という、2つの理由から、さりげなく、忘年会に参加出来るようにしたとか。毎年、参加している美良も、「いつの間にか、ごくごく当たり前のように凪がいた」という程度の認識しかないらしい。いやはや、凪のやる気というか、行動力にはまいってしまう。現実世界にいたら、ストーカー以上に危険で怪しく不思議な人物だろう…。しかも、凪は、これからも、この忘年会に参加するために、得意の料理を、この宴会に振舞っているのだ。
なんという抜け目の無さだろう。更に、その作った料理が無駄にクオリティが高いから困ってしまう。

今日の忘年会も、話の種は、そんな凪の料理のクオリティが高いことだった。
渥美さんが、凪が作った料理の数々を目の前にして、敢えて恋さんを見ながら、聞こえるような声で独り言を言う。
「あーあ、恋も、これだけ料理ができたらなぁ…。ポテトサラダと焼きうどんだけだからなぁ…。」
「渥美!!僕だって、料理くらいできるよ。実際、当番の時は晩御飯きちんと作ってるじゃない。」
「料理出来るって言うのなら、『たまたま、お肉屋さんで美味しそうなコロッケが…』とか『たまたま、スーパーで野菜に絡めるだけで作れる中華料理の素が…』とか…っててて、イタイイタイ!!左はダメ、怪我怪我!!」
渥美さんの嫌味に対して、恋さんが渥美さんの左腕に腕ひしぎを決めた。これに対して渥美は、脂汗を滲ませながら、格闘技で降参する時のように、目の前にある白いおしぼりをくるくる回した。
「全く、渥美は、嫌味たらしいんだよ。親しき仲にも礼儀ありっだよ。」
とほっぺをふくらませながら恋さん。
「そうですよ、渥美さん、作ってもらえるだけありがたいと思わないと。いつか愛想つかされちゃいますよ。」
恋さんに続いて、美華さんが、鋭く突っ込んだ。美華さんの、鋭いツッコミは、渥美さんにも効果抜群なようで「ハハハ…」と苦笑いして言葉をなくしていた。
「それにしても、いつ見ても本当に凪君の料理は、手際がいいし、美味しいし、感心するわ。うちの美良や舞華も見習って欲しいわね。」
渥美さんに、そういうことをいわないように釘を刺したのに、自分は、我が娘に対して同じことをする美華さん。家族ならいいんですか…?
「やめてよ。人前でそんなこと言われると恥ずかしいじゃない。」
「そうですよ。それに、私たちが全く料理出来ないみたいじゃないですか!」
攻撃の矛先が自分たちに向けられたのが分かった二人は、たまらず美華に反論するが、美華はそんなものを意に介する事なく返す。
「でも、二人とも、ハンバーグとカレーライス、あとは…チャーハン…うどん…って、ハンバーグ以外凝ったもの作れないじゃない。」
「「ゔっ!!」」
二人は、美華の余りの的確なツッコミ、というより事実に、返す言葉がなかった。美良と舞華だけでなく、恋さんも何となく気まずそうにしているのがいたたまれない。美華さんは、天然でやっているのか、計算でやっているのか…。
「そんな、美華さん。僕は、父がフードアドバイザーの仕事をやってるから、変わった料理を知る機会が多かっただけで、舞華さんや美良さんも、知る機会があれば、すぐに作れるようになりましたよ。それに、僕はレパートリーこそ多いですけど、味の方は全然です。」
自分が作った料理のせいで攻撃を受けている不憫な二(三)人(特に、舞華)を見ていられなくなったのか、美華さんのツッコミに対して、今度は凪がフォローを入れた。この辺りの処世術も、凪は、よく心得ている。
「でも、それだけできれば、やっぱり立派よ。それに、レパートリーが多いとなにかといいわ。毎日の献立を考えるのも、残り物を利用するのにも役に立つ、お弁当のおかずもバリエーション豊かになるでしょうしね。」
「「…」」
毎日、凪のお弁当を食べさせてもらっている二人は、もう、ぐぅの音も出なかった。そんな、二人を見て、さすがの凪も「困ったな。」と苦笑いだった。と、そんな時、凪が、いきなり僕の方を見て、何かアイコンタクトを送りながら言った。
「ところで、かいむ、お前の好きな料理ってなんだ?」
いきなり話題を僕に振ってきたので驚いたが、凪が僕に話しかけるのは、何か理由あってのことだ。今ならば…、
「え!?…あぁ、…ハンバーグ…だけど。」
僕の好物が、二人の得意料理だと言うことだ。丁度いいことに、実際にハンバーグは、僕の大好物だ。凪は、「お前にしては、上出来だ。」とでもいいたそうに、満足そうな顔で頷いた。一方、僕の好きな食べ物を聞いた美良と美華は、さっきまでの落ち込みモードから一転、ガッツポーズで、凪と僕の会話の中に切り込んできた。
「兄さん、ハンバーグ好きだったんですか。ハンバーグは、私の一番の得意料理なんです。早く言ってもらえれば、作ったのに。」
「あ、ああ、そうなんだ。じゃあ今度ご馳走になろうかな…。」
「かいむ!私だってハンバーグが得意料理なんだから。食べたら絶対気に入るから、待ってて。」
「あぁ、楽しみにしてる。」
二人がいきなり得意げになったのを見て、美華はクスクス笑っている。凪は、満足そうに舞華の方を見ていた。

***

12月28日 0:00、Gentle店内。
日付を変わっても、まだまだ宴会は続いていた。宴会の勢いは、衰えるどころか増すばかりだった。いい感じにお酒が入った父さんや渥美さんは、いまいち噛み合わない、ゆっくりと思考時間を設けた会話を楽しんでいた。そんな、顔を赤くして上機嫌な父さんが、僕に聞いてはいけない質問をかけてきた。
「皆は、ビールとカクテルどっちがいい?それともチューハイか?」
「父さん…」
勿論、僕は、ゲームの中とはいえ、アレな年だ。ため息をついて、僕が「No!!」と言おうとした。
その時、
「では、私はビールを頂きます。」
と凪がさらっと答えた。凪は、僕の視線を意に介さず、父さんからグラスにビールをついでもらっていた。
「んで、かいむは、どうする?」
ビールをつぎ終わった父さんは、性懲りも無く僕に尋ねてきた。僕は、なんの良心の呵責も無くお酒をついでもらった凪に心のなかでため息をつきながら、「凪は凪、僕は僕」と思って、改めて「No!!」と言おうとした。
その時、
「えーっと、じゃあ私は、オレンジ系のカクテルで!」
「私は、ピーチ系のカクテルをもらえますか?」
今度は、美良と舞華が、嬉々として父さんにカクテルを頼んだ。目の前で、得意げにシェイカーを振りカクテルを作る父さんと、作れれたカクテルをグラスに注いでもらう二人の姿を見て、僕は、思わず注意した。
「ちょっと!一応、僕らは未成年なんだから、自重…」
「はいはい、あんたは、飲まなきゃいいでしょ。私は飲むから。」
「ごめんなさい、兄さん。でも、興味があって。」
美良だけならともかく、舞華まで、お酒を飲もうとするとは…。僕は、思わず手で顔を覆った。そんな僕の様子を、知ってか知らずか、父さんは、ニコニコしながら、また同じ質問を僕に投げかけた。
「で、かいむは、どうするんだ?」
3度目の質問に対して、僕は、
「じゃあ、カシスオレンジを…」
僕は、典型的な日本人なんだと実感した。
「…。まったく、中途半端なやつだな。」
「もー、かいむは優柔不断なんだから。」
「ふふふ、今日は、皆で楽しみましょう、兄さん。」
先に、お酒をついでもらった三人から、そんな言葉をもらった僕は、何も言い返せないまま、父さんにカシスオレンジをついでもらうのだった。

お酒を飲みはじめて、1時間。僕は、カシスオレンジが、あまりにジュースっぽかったので、ついつい調子にのって、他のカクテルや、チューハイ、ビールといろいろ飲み比べていた。美良や舞華も同じような感じで、様々なベースのカクテルを、わいわい飲んでいた。凪は、淡々とビール瓶をあけながら、父さんと話し合っていた。そんな、皆の様子を見て、まだ、一滴もお酒を飲んでいない恋さんは、文字通り指を加えながら、
「いーなー、僕も飲んでみようかなぁ。」
誰かの許しを乞うようにそう言いながら、目の前にあるカシスの瓶を手にとろうとした。だが、残念なことに、もうすぐ瓶に手が届くと言うところで、横から大きな手が、その瓶を奪っていった。
「ダメだ。恋は、すぐまわっちゃうし、酔ってからが酷いんだから。」
渥美は、カシスの瓶を掴みながら、恋を指さしてそう言った。
「少しくらい大丈夫だよ。僕も成人だよ。」
「成人かどうかじゃなくて、たちが悪いかどうかだよ。」
「むぅ…」
「渥美、少しくらいいいじゃないか。恋さんにも少しずつ飲ましてやらないと一生慣れないぞ。」
「カイ、残念ながら、人様に見せられようなものなら飲ませるんだけどね。」
「渥美、それ以上は言わないで!お願い。」
そんなにまで酷いのか?確かに、飲む前に比べて、何だかぼんやりするような感じはある。でも、まだ僕でも正常だ。酒の力が分からない僕は、そんな3人のやりとりをぼんやり聞いていた。その時、僕は、急に背中から誰かにのしかかられた。背中に柔らかな感触が伝わってきた。
「ねー、かいむー。かいむは、もう飲まないのー?」
驚いて振り向くと、僕が見ても完全に出来上がっている美良が、ニヤニヤしながら、僕の背中にもたれかかっていた。
「み、美良!?」
「うふふ、お酒っておいしぃわよね。…気分もパーッと明るくなるわ。」
猫のような表情で、キャッキャと笑う美良を見て、「あー、渥美さんが言ってたのはこういう事なのかなぁ…」と思いながら美良をなだめる。
「美良、飲みすぎだよ。もう、飲まない方が…」
僕が、そう言いかけたところで、今度は、舞華が僕の腕にしがみついてきた。
「いいじゃないですか!にーさん、今日はぶれいこーです!」
そういって、キャハハハと笑った。(あー、これは酷い。)そんなことを思いながら、僕は舞華を引き離そうと、僕が凪に助けを求めた。
「ま、舞華まで…。二人とももう飲んじゃ駄目だって。凪君も二人に…。」
しかし、僕が凪を求める声も虚しく、凪は、僕の腕にしがみつく舞華をぼんやりと眺めて幸せそうな顔をしていた。
(だ、だめだ…。)
この時、先程言っていた、渥美さんのお酒の怖さと言うやつが何となくわかってきた気がした。無邪気な笑みを浮かべる舞華は、ますます強く僕の腕を抱きしめてきた。あまりにニコニコと幸せそうな顔で僕の腕にしがみつく舞華を見ると、嬉しいけれど、なんとも複雑な気持ちだった。しかし、事態はそれだけでは収集してくれなかった。今度は、そんな舞華の様子を見た美良が、舞華と反対側の腕にしがみついてきたのだ。しかも、美良は、腕にひしっとしがみつきながら寂しそうな声で僕に尋ねてきたのだ。
「かいむぅ、かいむは私のこと好き?」
「へっ!!?」
あまりの唐突な問、しかも、皆がいる場でのこの質問。酔っぱらっている父さんや、渥美さん、凪は、別にして、恋さんや母さんは、この面白い状況を瞬時に察知して事の顛末をニヤニヤしながら見守っているようだった。
「嫌いなの?」
周りに気取られて返事が遅れてしまったのが悪かったのか、美良は、急に泣きそうな顔になって上目遣いでそう聞いてきた。こ、これは…反則というか、禁じ手…。
「いやいやいや、嫌いじゃないよ。」
慌てて、否定するも、美良の機嫌は治らない。すると、美良は業を煮やしたのか、
「なら、ぎゅーってして!」
「えぇぇ!!?」
更に攻撃的に自分の要求を突きつけてきた。美良から、こんなことを言ってもらえるなんて、正直本当に嬉しい。酔っ払ってでもいなかれば絶対に聞けないセリフだろう。でも、ここは、見知った人が周りにいて、お話好きな女性二人(美華、恋)が「おぉ!!」と興奮した様子でこちらを見ているのだ。いくら、好きだからといって、こういった場所でイチャつくのははばかられた。でも、美良の方は、そんなことお構いなしだ。僕が、美良の要求に対して躊躇っているのを見ると、また泣きそうな顔になって、
「やっぱり、嫌いなんだァ…バカかいむー!!」
とポカスカ、僕の頭を叩いてきた。
「痛い、痛いって美良。やめてよ。」
「嘘つき、嘘つき!好きって言ったのに。一緒にいるって言ったのに。舞華とばかり一緒にいて!嘘つき!」
この状況の原因は嫉妬か…。しかも、結構根をはった嫉妬。これは、事態を収拾するのは大変だ。僕が、そう思ったとき、驚いたことに舞華が、僕の腕から手を離し、その手を美良の頭にのせ、頭を撫で始めた。
「美良、ごめんね。にーさんは、美良のことが好きなのに、悪戯しすぎちゃった。」
「舞華…、ううん、私こそごめん。舞華もかいむのことが好きなの知ってるのに…。」
何やら、いつもならば喧嘩を始める二人が酒の力を借りたおかげか、お互いに謝りあっている。普段は見ない、この光景に驚き、そして、思いのほか早く、なんの怪我もなく事態が収拾しそうで安堵した。が、
「美良、にーさんは、美良に譲るから、心置きなく抱きしめてもらって。」
「は?」
「うん、舞華、ありがとう。」
「ええ!!?」
何か、変なところに事態が収まろうとしていた。美華と、恋は再びやってきた面白い展開に、目を大きくして見守っている。しかも、今度はそこに、なぜか舞華も加わっている。僕は、美良に見つめられていて、美良は、僕が抱きしめるのを待っている。

これは、抱きしめるまで、終わらない状況なのか?

周囲から、無言のコールをかけられ、抱きしめるのを早く早くとせがまれている。
「こ、これは…」
「かいむ…、早く…恥ずかしい…」
(自分から、軽い調子で言い始めておいて!)と心のなかで僕は美良にツッコミを入れた。しかし、そんな言葉を恥ずかしそうに顔を赤らめながら言う美良の姿は、彼氏として、男として、なんというか、たまらないというか、もう有頂天というかで…、
「ええい、ままよ!」
「ふみゅっ!?」
僕は、美良を引き寄せ、ぎゅっと美良を抱きしめた。「おぉっ」と小さな声で、観衆が目を輝かせながら、その光景を見つめる。まさか、身内の前で、結婚式でも無いのに、こんなお惚気シーンを見せることになるとは…。僕は、顔を真赤にして、慣れないながらもひしっと美良を抱きしめた。抱きしめた美良は温かくて、のぼせてしまうようだ。余りの緊張に心音が相手に聞こえているような気がする。抱きしめられた美良の方は、満足したのか、そのままピクリとも動かず抱きしめられていた。僕は、そんな美良に、恥ずかしさを紛らわせるように、
「美良…。あんまり、こういうことは、人前で…」
注意しようとしたところで、あることに気づいた。
「zzz...」
「ん?」
僕の腕の中の彼女は、いつの間にか静かな寝息をたてていた。
「はぁ…。」
急に体の力が抜け、今までの気持ちが急速に静まった。これだけ振り回しておいて、最後はこれかよ。本当に、ワガママだなぁ。
「美良、寝ちゃったみたいです。」
僕が、美華さんと、恋さんに、そういうと二人は揃って「あらあら。」といった感じで、微笑みながら、僕の胸の中で眠っている美良を横にして毛布をかけた。美良が眠ったのを見て、舞華も一気に眠くなったのか、美良にかけられた毛布の中に潜り込むと、仲良く並んで眠り始めた。
「まったく…。でも、本当に仲良くなったなぁ。」
一騒動を終えて、僕は頭を冷やすために、外の冷たい風をあびようとベランダに出た。

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