DreamPresenter

4

DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 4.0

chapter 4.0: 12月30日:

こっの!!バカかいむぅぅぅ!!
美良の怒号が桐生家に響き渡る。怒られている理由は、勿論、昨日の朝に起こった神谷とのアレだ。
12月29日、二日酔い明けの気持ちよさからランラン気分で散歩に出かけた僕は、たまたま僕に少なからず好意を持っている神谷に出会い、彼女の家に招待され、事の成り行きから彼女の家に上がりこんだ。勿論、罪悪感はあったし、後でこうなるだろうことは予想していた。だからこそ、神谷の家に上がったことも、彼女から皆で初詣に行く誘いを受けたことも素直に美良に伝えたのだ。…まぁ、予想出来ていたからこそ、どう伝えようか1日近く悩みこんでしまったのだが…。

美良は、眉を吊り上げて、今にも殴りかからんとしていた。僕は、ビンタの1、2発。グーパンチの1発…。半殺し…も覚悟というか、念頭に入れていたが、美良の態度は僕が思っていたものとは違っていた。
「あー、もう!本当に!かいむ!素直すぎ!!」
「???」
美良は怒りの矛先をどこに向ければいいかに悩むように、赤みがかった美しい髪をボサボサ掻いた。そして、僕の顔をムスっとした表情で睨むかと思ったら、
「…デート!」
「へ?」
「で、デート行くの!!今から!かいむのおごりで!」
「え、えぇ!?」
「『えぇ!?』じゃないわよ!今日一日私に付き合ってもらうわよ!」
予想外の要求をふっかけてきた。余りの予想斜め上の展開に僕は安心していいのか不安になるべきなのか分からなくなった。美良は、間違いなく手を出してくるだろうと思っていた。それが、デートに変わるとは…。おごりなのは多少きついけれど(しかも、僕はアルバイトをしていないので、美良の方が僕よりずっと金持ちなんだけど…)、デートに変わるのならば安い…はず。なにより僕にとってもデートできることは嬉しいことだった。
「うん…じゃあ…いく?」
「行くわよ!ちょっと用意するから待ってなさい!」
そう言って美良は、自分の部屋に行ってしまった。僕は、未だに現実感(ゲーム感)がないまま、「僕も用意するか…。」と呟いて財布と上着を取りに行った。

***

だが、事態はより混沌としていた。
「で、なんで、舞華も出かける気満々なわけ?」
「だって、兄さんと美良が買い物にいくみたいだったから。」
「こ、このっ…!!」
僕と美良が用意を済ませ玄関にいくと、そこには準備万端な舞華の姿があった。舞華は、「二人で行かせませんよ。」といった様子でニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらそこにいた。そんな舞華の様子を見た美良は、広角をヒクヒクと引きつらせて怒髪天を衝く様子だった。
「兄さんも、皆で出かけたほうが楽しいと思いますよね?」
(そ、そこで僕にふるの!?)「え、あぁー…。」いきなりの舞華の口撃に僕は思わず口ごもった。そんな僕を見るに見兼ねて美良が舞華に反撃する。
「あぁ、やらしい!今日は、二人で出かける約束してたんだから。舞華!あんたは、一人寂しく買い物に行ってくればいいでしょ。」
「美良、約束って、さっき兄さんに無理やり取り付けたのでしょ?兄さんに全部奢らせて無理やりデートさせるなんて、どちらがやらしいんだか。」
「全額奢らせるつもりなんてないわよ!何間に受けてるのよ!とにかく!今日は、二人で遊びにいくの!」
「それじゃあ、お好きにどうぞ。じゃあ私も一人で楽しんできますから。」
「…舞華!付いてくる気でしょう!」
「さぁ?」
女の子って怖い…。僕は、いつになく白熱する姉妹喧嘩を前に思わずクラっとしてしまう。クリスマス辺りから仲良くなったと思ってたのに、やはり美良と舞華は犬猿の仲のようだ。
「あのぅ…とりあえず…」
「そうだ、兄さんに決めてもらいましょう。」
「へ?」
「いいわよ。かいむ!かいむは私と出かけたいわよね。舞華は邪魔よね。」
「兄さん、皆で出かけてみるのもどうですか?」
やっぱりこうなるのか、と僕は深く溜息をついた。そして、
「舞華、ごめん。今日は、先に美良と約束しちゃったし。僕が悪いことしたから。また別の日に皆で買い物に行こう。」
と言った。今回の舞華はさすがに強引だ。それに、今日くらいは美良にちゃんと答えないといけない、僕はそう思った。僕の言葉に何の返事もないので不思議に思って二人を見てみると、目の前の二人は目を丸くしていた。
「かいむ…。」
「兄さん…。」
「へ?ど、どうしたの二人とも。」
「兄さん。分かりました。また、誘ってくださいね!約束ですよ!」
「ふふ、じゃあ行きましょ。かいむ。奢りはスイーツだけにおまけしてあげるわ!」
何か分からないけれど、目の前の姉妹は急に笑って僕を見ていた。
「え?何?」
「はいはい、いくわよ。かいむ!」
「え、ちょっと!!?」
何が何か分からないまま僕は、美良に連れ出され街に向かった。

***

どたばたな朝を終え、僕と美良は黒い塔がそびえる中心街にやってきた。
とりあえず、街まで出てきたのはいいけれど、これからどうするかは全くのノープランだった。改めて言うけれど、僕は、今まで本当のデートというものをしたことがない。女友達と遊びに行ったことはあったが、実際に交際している女性と遊びに出かけるなんてことは未だ無い。素人の僕は街を歩きながら、
(とりあえず、王道の映画にでもいけばいいのだろうか?)
(いや、美良の性格であれば、ボーリングだとかの体を動かせる場所がいいのだろうか?)
(いやいや、今日は、僕の奢りでショッピングの方が喜ぶのだろうか?)
と、次に良く場所を頭をフル回転させて考えていた。
「…いむ?」
(いや…、よく考えたら午前、午後があるわけだから…)
「かいむ?」
(晩ご飯はどうするのだろうか?一緒に食べて帰る?でも、そんなの聞くのは情けないしなぁ…。)
かいむ!!!
「うわっ!!?」
美良に怒鳴られてようやく僕は、我に帰った。さっきから呼ばれているような感じはしたが、デートプランを考えるので頭がいっぱいになっていた。恐る恐る美良の方を見ると、美良は怒っているというよりは呆れ顔だった。彼女は「ふぅ」とため息を漏らして言った。
「別に、そんな必死になって決めてくれなくてもいいわよ。」
「へ?」
「かいむって、本当にそういうところ駄目よね。」
「???」
「いろいろ考えてくれるのは嬉しいけど、それで、私を無視して放置してたら意味ないじゃない。」
「あー…。ごめん。」
美良の的確な指摘に僕は返す言葉がなかった。僕が情けなく謝ると、美良はまた「ふぅ」とため息をついた。そして、
「別にいいわよ。別に謝る必要なんてない。…二人で考えたらいいじゃない。」
と、最後は少し恥ずかしそうにいった。僕は、美良のその言葉に嬉しくなって微笑みながら返した。
「…うん、そうだね。」
「な!なにニヤけてるのよ!!気持ち悪い。」
「いやぁ、なんだかありがたいなぁって。」
「あー、もう!さっさと、映画館でも何でも入りましょ!!」
「え?二人で考えるんじゃ?」
「つべこべ言うなー!」
美良は、そういいながら僕から距離をとって前の方を歩いて行ってしまった。

やっぱり、僕は女の子の気持ちが分からないらしい。僕は、急いで美良に追いついて、中心街にある映画館に向かった。映画館に入るとどれを見るか選ぶ間もなく、美良が「これがいい。」と言ったので、僕らはチケットを買って映画を視聴した。1時間半ほどして、映画を見終えた僕らは映画館から出て、近くのファーストフード店に入って昼食をとった。昼食の間、美良が必死に、「恋愛映画を見たけど、別にデートだからとかじゃなくて前から興味があったから見ただけだから。」と弁明していた。僕は、その必死さに思わず笑みをこぼしながら「うん、分かった。」と答えたが、僕のニヤケ顔が気に入らないのか、分かったと言っても何度も顔を真赤にして彼女は弁明し続けた。僕としては、別に、どっちだってよかったんだけれど。

昼からは、街を二人でぶらぶら歩きながらウインドウショッピングをした。ウインドウショッピングも余りしたことがなかった僕は、ひたすらに店に飾られた商品を眺めて、「これ良くない?」「あれ、可愛い!」という美良に相槌をうっていた。しかし、女性のウインドウショッピングは凄いと思う。僕も、最初は雑貨を一緒に眺めながら、「あれいいな。」「これもいいな。」と楽しんでいたのだが、30分、1時間と経つと、どうして買わないものをこんなにも必死に見れるのだろうとぐったりしてしまった。どこかで、男は目的がないと動けないとあったが、まさしくそれだ。それでも僕は、美良に楽しんでもらうために、彼女の買い物に付き合ったが、更にしばらくすると、顔に疲れが出てしまっていたのか。
「もう、疲れたなら、疲れたって言えばいいのに。」
と美良に叱られた。
「いや、美良が楽しんでるのに悪いじゃない?」
と返すと、
「はぁ、かいむが楽しんでなきゃ意味無いでしょう。」
とまた的確に返された。やっぱり、なかなか人の気持ちをくむというのは難しい。

僕と美良はウインドウショッピングを切り上げると、近くの喫茶店に入った。腰を降ろすと僕は、思わず「ふー」と長く息を吐いた。美良は、そんな僕に「おっさんか!」と突っ込みながら笑っていた。全くその通りで情けない。同じかそれ以上歩いているのに顔色人使えないのは、流石、女性だと思った。店員さんが着て、僕はブレンド、美良は苺のミルフィーユとカフェモカを注文した。
「へっへー、ここは、かいむの奢りだからね。」
「うん、分かったよ。」
「なによ、嫌に素直じゃない?」
「僕も、悪いことしたなと思ってるからね。美良にも、神谷さんにも。」
「悪いことと思ってるなら、しなきゃいいのに。」
「そうだね。でも、どうも、断れる感じじゃなかったから。」
「そんなこと言って…。そんなことじゃ、いつか大変なことになるわよ。」
「うん…。そうだね…。」
そんなことを話しているうちに、注文していた品が運ばれてきた。美良は、運ばれてきた綺麗なケーキに目を輝かせた。店員は注文を運び終えると「ごゆっくり。」とだけいって店の奥に戻っていった。
「Gentleでは、ケーキとか食べないの?」
「時々、買うし、貰えるわよ。でも、店が違うとケーキの内容も違うじゃない。」
「それもそうだね。」
「ねぇ、かいむ。」
「何?」
「これって…デートになってるかな?」
「え!?」
美良の思いも掛けない発言に、僕は口にしかけていたコーヒーを元に戻した。その様子を見て、美良はまた不機嫌そうに眉を少し釣り上げた。
「なに?」
「いや…、何と言うか、意外だったから…。」
「私だってねぇ。今日、かいむにあーだこーだ言ってきたけど自信なかったのよ。きちんとしたデートなんてしたこと無いんだから!!」
「あ、うん。ごめん。」
「なんで、謝るのよ。」
「いや…何となく…。こういうのは、男のほうがしっかりしないとなと思って…。」
「まぁ、今日のかいむは、そのせいで気を遣いすぎてたけどね。」
「ごめん。」
「はぁ…、謝らないでって。」
「あはは、そうだったね。」
「ねぇ、かいむ。」
「ん?」
「付き合ってるなら…。」
美良がそう言いかけて、しばしの沈黙があった。その沈黙の最中、美良は何かを言おうか言うまいかを悩みながら一人顔を真赤にしていた。そして、
「つ、付き合ってるなら!!こういうこともする!?」
美良が決意したようにそう言うと、自分がたのんだミルフィーユを分けて、取り分けたミルフィーユがのったフォークを僕の方に向けた。
「え?これって…。」
「は、はやくしてよ。恥ずかしいんだから。」
美良は、フォークを持つ手をプルプルと震わせながら、僕の口にミルフィーユを近づけていく。意識しなければ、どうということはないのかもしれないが、美良が顔を真赤にしながら頑張っているのを見ると、逆に僕の方も意識して紅潮してしまう。
「かいむ、あー…。」
「うん、あー…。」
「いいですねぇ。仲が良くて。」
いきなりの横槍に僕と美良は、一気に距離をとり、美良は証拠隠滅とばかりにフォークに刺さっていたミルフィーユを口に入れた。僕らが、店内を見回すと、僕の後ろの席からクスクスと笑い声が聞こえた。
「兄さん達、面白すぎですよ。そんなに恥ずかしがるならやらなくても、あはは。」
「ま、舞華!?」
いつからいたのか、僕の後ろの席には、紅茶と本をテーブルに載せ、優雅にお茶を楽しむ舞華の姿があった。僕と美良は、二人とも口をぱくぱくさせたまま、ただただ狼狽えるばかりだった。舞華は、そんな僕らを見てまた笑った。
「注意不足ですよ。二人の世界に入るのはいいですけど、ちゃんと周りを見ないと。」
「あ、あんた、いつから?」
「二人が入店したときにはもういましたよ。二人が、私の後ろの席に座ったときは嫌がらせかと思いましたよ。」
美良は、その言葉を聞いて気を失いかけている。美良の性格を考えれば、それもそうだろう。僕だってかなり恥ずかしいのに…。僕らが呆然としている間に、舞華は、自分の席を僕たちのテーブルの方まで移動させた。
「な、何こっちに来てるのよ!!」
「いいじゃない。いっぱい楽しんだんでしょ?私も、今から楽しみます。」
「何馬鹿なこと言ってるのよ!!」
「ほら、他のお客さんが、こっち見てますよ。静かに…。」
「ぐぅぅぅ。」
「ケーキを食べたら帰りますよ。店員さん、追加の注文いいですか?」
舞華はそういうと、店員を呼んで、ミルクレープをホールで一つたのんだ。
「ちょ、ちょっと…。あんた!」
「大丈夫ですよ。ケーキは私が払います。皆で楽しく食べましょー。」
「あー、頭いたーい。」
「舞華のパワーにはいつも参っちゃうよ。」
こうして、僕らは、歓談しながら、長い時間をかけてケーキを完食した。途中、舞華が「あーん」とケーキを僕に食べさせようとしたりするのを美良が止めに入ったり、美良が余りの満腹すぎてテーブルに突っ伏し始めたり、いろいろあった。喫茶店で優雅というよりは混沌とした時間を過ごしたわけだが、いつもの僕たちらしくて何だか楽しかったのも事実だ。

喫茶店を出たら、本当に舞華は帰ると言ったが、ケーキのせいで夕食を食べる空気でもなかったので、僕も美良も舞華と一緒に帰ることにした。
「もー、最悪…。今回は、腹が立ちすぎてツッコメないわ。」
「本当に偶然だったんですよ、そこだけは信じてくださいね。それに、後ろの席に座らなきゃ、私はそのまま帰るつもりでしたよ。」
「それは信じるよ。にしても、あんなに上手いことになるとは…ふー。」
「かいむ!デートやり直すわよ!もう、恥ずかしい云々なんて言わない!やり直しましょ!」
「あ、うん。そうだね。」
「あらあら、お熱いことで…、でも明日の晩は駄目ですよ。皆で初詣に行くんですから。」
「神谷さんが、必死の思いで提案した企画だから成功させないと。」
「かいむ、私、明日修羅場になっても知らないからね。」
「え!?…うん、覚悟しときます…。」
「もう、美良、兄さんをいじめないでください。」
「いじめてなんかないわよ。いじめてるのはあんたの方でしょ!」

帰り道、3人で横一列に並んで歩きながら、いつものように話しあう。仮想現実ということも、AIPCということも忘れてしまいそうだった。明日で今年が終わる。来年の僕らはどうなっていくのだろう?僕は、暮れる夕日を眺めながらそんなことを思った。そして、
「このまま、こんな風でいられたら…それは、それで幸せなのかもしれない…。」
僕は、そんなことを考えていた。それは、この世界からの洗脳なのかもしれない。でも、だからといって、僕は彼女たちやこの世界のことを無下も無視もできないのだ。

僕の幸せは、どこにあるのだろうか?なんて哲学者気取りで僕は僕の家に帰るのだった。

ページ上部に移動