DreamPresenter

4

DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 5.0

chapter 5.0: 12月31日:

僕が、この世界にきてから約半年。長かったような短かったような、ただ、僕の人生の中で最も大きな変化のある半年だった。

今日は12月31日、僕は、この世界で初めての年越しを迎えようとしていた。元の世界に帰りたいと奔走していた僕は今、桐生一家と年越し番組を眺めながら、もうすぐ来る来年と皆で行く初詣を待っていた。時計の針は、もう23:00を指していた。

「よしっ!」
こたつの誘惑を断ち切るために、僕は気合を入れ一気に立ち上がった。
「もう行くの?」
こたつに半身を突っ込んで、うつ伏せの形でテレビを見ていた美良は、頭だけ僕の方に向けて尋ねた。
「うん、やっぱり遅れちゃ悪いからね。」
「でも、早くない?あの噴水なら15分前出ても間に合うわよ?」
「そうなんだけど…、早めに着いておかないと気になるタイプだから。」
「…ふぅ、仕方ない。じゃあ、行くとしますか!」
そう言うと、美良もこたつの誘惑を断ち切るために勢い良く立ち上がった。そして、隣でうとうと居眠りをしていた舞華に声をかけた。
「ほら舞華!舞華も初詣行くんだから起きなさい!行くわよ!!」
舞華は、美良に揺すられても、まだ眠たそうにうつらうつらしていた。
「舞華、そんなに眠いんならやめとく?」
僕が、舞華に尋ねると、舞華はビクンとして、
「ふぇ…。それは…いけません…。行きます…。」
とだけ答えた。
「なら早く起きないと。」
僕が舞華の肩をポンポンと叩くと、舞華はようやくこたつからノロノロと出て立ち上がった。
「舞華、早く!間に合わなくなるから!」
「分かってる…分かってる…。」
どう見ても分かっていなさそうだったが、舞華はゆっくりと自分の部屋に戻っていった。その様子を見届けてから、僕と美良も自分の部屋に戻って支度をし始めた。支度と言っても、上着と財布を取ってくるだけなので、僕と美良は5分も立たないうちに支度を済ませて玄関まで出てきた。

僕と美良は、玄関で残る舞華を待ったが、舞華はいつまでたっても出て来ない。僕らが支度を終えてから、もう10分も経っていた。
「まさか、舞華、中で眠ってるんじゃ…。」
慌てて様子を見に舞華の部屋に入ってみると、案の定、舞華はベットに突っ伏して寝息をたてていた。美良は、眠っている舞華の肩をつかんで何とか起こそうとする。
「舞華!本当に放っておくわよ!」
「…それはダメ。起きる…起きるから…。」
舞華は、美良に肩を掴まれ頭をゆさゆさと揺らされながら必死にそう言った。が、まだまだ舞華は眠たそうだ。
「かいむ、この調子じゃ、時間かかりそうだから先に行っといて。」
「別に待ってても構わないけど。」
「もし、皆間に合わなかったら困るから、先に行って神谷さんに言っといてもらえると助かる。」
「分かった。先に行っておくよ。」
「うん。私達もすぐ行くから。」
そう言われて、僕は一人で家を出た。

12月末に一人で夜道を歩く寂しさで寒さが余計に身に染みたが、僕は内心ウキウキしていた。なぜなら、あと数十分もすれば、ここで出会った皆と一緒に初詣に行くんだから。例え、この世界は仮想的なものかもしれないけれど、今の自分にとって、この世界も、ここにいる皆も大事な存在になった。だから、この世界を楽しみたいと思う。渥美さんに言われたからというわけではなく、自分の意志で、この世界を生きたいと思う。僕は自然と微笑んでいた。僕は、吐く息が白くなるのを楽しみながら待ち合わせの噴水までやってきた。

***

待ち合わせ10分前に噴水についたが、まだ誰もここにはきていないようだった。美良が言ったとおり、最初に家を出ようと思っていた時間は、かなり早かったのかもしれない。僕は、噴水の縁に腰掛けて皆が来るのを待った。

僕が座ってすぐに、神谷と凪がやってきた。僕が手を振ると、凪は無愛想に少しだけ右手をあげ、神谷はテンションが上がっているのか大きく手を振りかえした。
「お待たせしてすいません!!」
「いやいや、まだ待ち合わせ時間にもなってないし大丈夫だよ。」
「舞華さんはどうした?」
「ちょっと寝ぼけてて支度に時間がかかってる。待ち合わせ時間を過ぎちゃうかもしれないから、僕だけ先に来た。」
「そうか…。」
「天上君、凪くんの誘いで今日は喫茶Gentleの方々も一緒に参加することになったんですよ。」
「え?そうなんですか。」
「あぁ、神谷が親に初詣のことを言ったら、大人同伴じゃないと駄目ってことになって。それで、渥美さんたちにお願いしたら一緒に来てくれることになった。」
「すいません。私、無計画で…。」
「いいじゃないですか。人数が沢山いたほうが楽しいですし。」
「そう言ってもらえると助かります。今日は、皆で楽しみましょう!」
神谷は、終始ニコニコ顔だった。やっぱり、皆で初詣をすることにして正解だった。「きっかけ」をずっと待ってきた神谷が、自分から何かを成し遂げることは彼女にとってとっていい方向へ繋がるだろう。凪も、神谷の楽しそうな様子を嬉しく思っているのか、神谷の様子を見て微笑んでいた。

"カツ、カツ、カツ"

「あ、噂をすればかな?」
噴水に向かってくる足音を聞いて、僕らはその足音がする方を向いた。僕らの視線の先には、2つの影があった、一人は背が高く男性の影、もう一人は、背が低く女性の影。その姿を見て、僕は最初、渥美さんと雫(もしくは恋さん)だと思った。でも、近づいてくる影は、渥美さんや雫では全然ない誰かに見えた。僕は、何故か急に不安になった。ただの通りすがりかもしれない。なのに、僕は背筋がぞっとし、冬なのに汗がツーっと流れた。

"カツ、カツ、カツ"

どんどん近づいて明確になってくる影、明確になればなるほど、その影は僕が望んだのとは別の誰かになっていた。いや、誰か…ではなかった。僕は、彼と彼女が誰かを知っている。

"カツ、カツ、カツ"

「今度会ったら逃げてくれ」そう言った渥美さんの言葉が思い出された。僕は、息を飲んだ。もう既に、姿まで分かるようになったところまできて初めて、その男が口を開いた。
「久しぶりだね、天上かいむ君。こんな時に悪いが君に用がある。」
僕は、言葉を失っていた。目の前にいるのは、この世界で唯一解決していない問題、学ランを着た男と僕の実妹、水無月京だったのだ。

「今度は、ちゃんとお話ができるね、お兄ちゃん。」

京は、無機質な声でそう言った。どうして、こうなってしまったのだろうか?1年の最後、全てが上手くいきそうだったときにどうして…。凪と神谷は、何が起こっているのか分からず、視点を僕と二人の間で行ったり来たりしていた。僕は、二人を恨めしそうに見つめて、桃源郷であるはずのこのゲームをまた呪い始めた。

ページ上部に移動