DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 7.0

chapter 7.0: 崩壊へのカウントダウン:

僕の目の前にいる三人は、それぞれ違った表情をしていた。苦虫を噛み潰したような顔の尾高、悲しそうでどこか諦めているような顔の京、そして、眉を吊り上げながら怒り苦しそうな顔の母さん。三人の意図は、それぞれの表情からは読み取ることは出来なかったが、三人が僕と渥美さんに危害を加えることは間違いなかった。

渥美さんは、しばらく目の前の三人を睨みつけていたが、何かを察したのか、母さんに語りかけた。
「杏子、これはどういう事なんだ?」
渥美さんの言葉に僕は違和感を覚えた。どうして渥美さんが母さんのことを知っているんだ?僕は、渥美さんの方を見たが、その真剣な表情から、僕は渥美さんに声を掛けることが出来なかった。一方、呼び捨てにされた母さんは、渥美さんの問に淡白に答えた。
「息子を現実世界に帰す、それだけよ。」
「どうして、無理矢理かいむ君を連れ戻すうとするんだ?かいむ君は、この世界に残ることを望んでいるんだぞ!」
「渥美も小うるさくなったわね。この世界が、かいむにとって害でしか無いからよ。」
「納得できないな、少なくとも、かいむ君は、この世界に残ることを自分で考えて選んだ。ずっと現実世界に戻りたいと思っていた彼が、この世界を選んだ。それは、この世界が単に害ではないと思える所があったからじゃないのか。」
「だから害なのよ。この世界は蟻地獄のように人を飲み込んでいく、当人は疑問すら持ずに…。害でしか無い。」
「…、本当にそう思っているのか?」
「嘘をついてどうなるの?本心よ。」
「…やっぱり、目を覚まさせる必要があるみたいだな。」
はぁ?夢見てるのはお前だろうが、渥美ぃ!!

渥美さんの語りかけにも母さんは譲らず、母さんは尾高に目配せをし、戦闘態勢をとったが、渥美さんの方が一歩速かった。噴水の水がうねったかと思うと、尾高と京の方に飛んでいき、それぞれを包む半径2メートル、ドーム型の水の牢屋に変わった。
「なっ!!?」
いきなりのことに、尾高は思わず驚きの声を上げた。
「俺は、あくまで話し合いがしたいんでね。君たちは邪魔しないでほしいな。さて。杏子、話の続きを…」
「待て。」
「!?」
僕は、先程から繰り広げられている漫画やアニメの世界のような戦闘風景に声も出ない。ほんのさっきまで水の檻に入れられていた尾高が、瞬間移動でもしたかのように、ナイフを持って渥美さんの横に立っていたのだ。
「私を無視するな!!」
尾高の形相は凄まじく、ヤクザやチンピラの飛ばすガン以上の凄みで渥美さんを襲った。しかし、渥美さんも渥美さんだ、目の前でナイフを突きつけられているのにもかかわらず全く意に介す様子がなかった。それどころか、つまらないものでも見るかのように尾高を一瞥した後、
「仕組みが分かってしまえば滑稽だね。無駄なことはしない方がいい。俺は、そちらが何もしてこなければ危害を加えるつもりはない。」
とだけいい母さんに向き直った。
「ぐっ…。」
渥美さんの言葉に負け、尾高は、また消えたかと思うと元の檻の中に戻っていた。

母さんは、尾高が為す術なく渥美さんの反撃に破れてしまったのを見て、唇を噛み締めた。
「本当に面倒くさい男ね。あなたは。」
「すまないね。でも、まだ話さないといけないことは沢山ある。」
「あなたにあっても、私にはないのよ。どきなさい!じゃないと消すわよ。」
「断る!かいむ君のためにも、そして、杏子のためにも!」
「じゃあ、大人しく消えなさい!!」
母さんは、天高く右手を挙げた。

この時、僕は背後から噴水に向かって歩いてくる足音を聞き、思わず振り向いた。
「最悪だ…。」
美良と舞華が急いで噴水の方にかけてきていたのだ。しかも、どういうわけか、二人ともこの異変に全く気づかずに全速力でこちらに走ってきている。僕は、慌てて二人に向かって叫んだ。
二人とも、こっちに来るんじゃない!!
しかし、二人は一向に走るのをやめない。一方、母さんが手を挙げたせいなのか、また、突然一件の建物が倒壊し、その破片が重力に逆らい僕たちの方に飛んできた。避けることはできない。避ければ、その破片は二人の方に飛んでいってしまう。
「く…くそっ…。」
僕は、どうすることもできず呻いた。そんな情けない呻き声を渥美さんは、また拾いあげてくれた。
「大丈夫!!」
"バァァァン"
渥美さんが、右手を突進してくるコンクリート片にかざすと、そのコンクリート片は破裂し、粉々になった。
「かいむ君。二人が来たようだ。俺が杏子を食い止めるから、君たちはGentleに行くんだ!!」
僕は、ただ頷いた。今、僕ができることはそれしかなさそうだった。僕は、二人の方に走った。

遅れて噴水近くまでやってきた美良と舞華は、ようやく周囲の雰囲気から異変を感じ取ったようだったが、今度は異変に対してどういう風に対処すればいいのか分かっていないようだった。
「何!?かいむ、何があったの!?」
「兄さん、これは一体…。」
「説明している暇はないんだ。今は、急いでGentleに行くんだ。」
「ちょ、どういうことよ!?」
「え?どうして?」
「いいから早く!!」
僕は、二人の手をとると半ば強引に、先程、凪と神谷が逃げた道をかけた。

しかし、母さんが僕たちを簡単に逃がしてくれるはずがなかった。
待ちなさい!!
母さんの怒号とともに、僕らの目の前の道に亀裂が入り、目茶苦茶に崩れてしまった。それを見た二人は改めて混乱した。
「なんで…、なによこれ…。」
「兄さん…。何が起こってるんですか…?」
「大丈夫…、大丈夫だから…。」
僕は、根拠のない励ましを二人にかけた。正直、僕の方が何が起こっているのか教えて欲しいくらいだった。目の前の道が塞がれ僕らは呆然と立ち尽くすしか、
かいむ君!!そのまま走れ!
「!?」
渥美さんの声が聞こえた。僕は、考えるよりも早く二人の手をとって目茶苦茶になった道に向かってかけだした。すると、壊された道の上に長く一直線に氷がはりめぐらされた。
滑るだろうけど、できれば急いで渡ってくれじゃないともたない!!
っ!余計なことを!!
振り向くことはできないが、渥美さんが何かをしてくれていることは明白だった。
"バリバリバリ"
背後から、氷の割れる音が聞こえた。
邪魔してるんじゃないわよっ!!
母さんの怒号と共に氷の割れるスピードが速くなり、亀裂が僕らを追っかけてきた。
「かいむっ、氷がっ!」
「分かってる!!」
美良に急かされるが、僕らが走っているのは氷の上、気を抜けばすぐに転んでしまう。僕らは、映画顔負けにつまずきながら必死に地
面の亀裂から逃げた。間一髪のところで、僕らは氷の道を渡り終えると、今度は、
「!?恋さん!?」
「こっちよ、早く!」
目の前にいきなり恋さんが現れ僕らを先導し始めた。僕は、その違和感から走りながらパッと後ろを振り返ってみた。
「!?」
僕は驚愕した。そこには、今まで、あれだけ騒がしかった音が全くやんでおり、地面の亀裂も消え、何事もなかったかのようにいつもの風景が広がっていた。どういう理由からそうなっているのかは分からなかったが、このせいで美良と舞華は、噴水のごく近くまでこないと異変に気づかなかったのだと分かった。
「かいむ君、急いで!」
僕が恋さんに注意されて我に返ると、また全速力で走り出し…
いい加減にしろって言ってるでしょうがァァァァァ!!!!
天を裂くような叫び声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、僕たち四人は走るのを止め、立ち止まった。道の左右にあった家々が壊れ、それらがバリケードのようにうず高く積まれ道を塞いだのだ。身長の倍近い高さがあるそれを見た僕は、口を開けたまま何も言えず立ち尽くした。
「しまった…。渥美…。」
「…何よ、これじゃ通れないじゃない…。」
「私達…これからどうなるの…。」

渥美さんと恋さんの助けも虚しく、僕らは逃げ道を塞がれてしまった。目の前にある高い壁は、僕らを見下ろしながら、何もできない僕を見て嘲笑っていた。

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