DreamPresenter

4

DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 8.0

chapter 8.0: 無力な少年:

僕らは逃げ道を封じられ、母さんと渥美さんの戦いの中に入ることもできず八方塞がりの状態だった。僕らの逃げ道は、母さんの未知の力のせいで瓦礫や鉄心がうず高く積まれていた。僕らがそれらを登って逃げることなんて到底できない。回り道をしようとしても、母さんは目の前の道をそうしたように別の道も塞ぐだろう。僕らは渥美さんと母さんの姿が見えるギリギリの距離まで戻った。噴水近くでは母さんと渥美さんがギリギリと睨み合っていた。二人は睨み合っているだけに見えるのだが、二人の周りでは、時折、瓦礫が飛んだり、噴水から水が水鉄砲のように高速噴出されたりしていて、僕らはソレ以上二人に近づくこともできなかった。僕らが取れる行動は二人の戦いを見守ることしかなかった。

僕は、為す術がなくなってようやく恋さんに今の状況について尋ねた。
「恋さん、これはどういうことなんですか?」
「僕は、渥美から『もし、かいむくん達に何かあったら Gentle に匿うように』と言われてただけだから…。」
「何で匿うのかとか、何かあったらの何かも言ってなかったんですか?」
「うん。でも…こんなことになるなんて…。まさか、かいむくんのお母さんと渥美が戦うことになるなんて…。」
「…」
要するに恋さんですら現状何が起こっているのか分からないということだった。僕は続けて恋さんに渥美さんが使っている魔法のような能力について尋ねた。
「渥美さんや母さんが使っているあの魔法のような力は何なんですか?」
僕の質問に、恋さんの表情は曇った。
「詳しいことは知らないけど、渥美はあの能力のことをバグと呼んでた。」
「バグ…あの機械とかが誤作動したりする欠陥のことですか?」
「そうなのかな…。渥美は、このゲーム上の物体(オブジェクト)の操作を操作する権限を得るって言ってた気がする。例えば、渥美は水のオブジェクトが持つ操作、現象の一部をいじることができるって言ってた…。」
恋さんは悲しそうな顔で続けた。
「詳しい仕組みなんて分からないけど…あの力を使うと何かのパラメータが弄られ、あの力を持った人はパラメータが弄られる度に身体的な異変が起こる…らしいの…。」
恋さんは、説明の途中で言葉に詰まり何も言えなくなった。

ゲームの中の物体(オブジェクト)の操作を操作する権限を得る…、バグ…、バグを使えば使用者は何らかの身体的な異変が起こる…、僕は恋さんの説明を聞いて一瞬自分の耳を疑った。今、渥美さんは僕たちを守るために力を使っている。その力を使う度に渥美さん自身が傷ついている…。そして、母さんも…。
「そ、そんな…。」
美良も舞華も、さっきにも増して渥美さんを心配そうに見つめた。
「渥美は自分のことなんて考えないタイプだから…。自分がどうなってもいいから、お母さんを止めようとしているんだと思う…。」
恋さんは震える声でそう言った。恋さんを見ると、恋さんの瞳は潤み、涙が溜まっていた。
「…、渥美さん…。」
「渥美は正義の味方面してるんだろうけどさ…心配してる僕らの身にもなって欲しいよね…。」
恋さんは、ただただ素直に今の自分の気持を吐き出していた。僕は痛々しい姿の恋さんを見て、
「大丈夫ですよ。あの立派な渥美さんですから、きっと何とかしてくれます…きっと。」
と他人任せの無責任な言葉で彼女を慰めるしかできなかった。

目の前で繰り広げられる戦いは激しさを増し、互いのバグがさっきにも増して飛び交うようになった。遠目に見てもお互いの動きが鈍り、バグの力に頼る力押しの戦いになっていた。石やコンクリートの破片、水しぶきが飛びかい、二人は泥だらけになりながら戦っていた。お互いに防ぎきれ無かった攻撃を受け体のあちこちで軽く出血していた。
「どうして…、どうして…あんなになるまで、僕なんかのために戦ってるんですか…おかしいですよ。」
僕は、そのあまりの死闘を見ていられなかった。この戦いは元はと言えば僕が原因で始まったものだ。僕は自分のせいで多くの人が傷つくなんて耐えられなかった。なにより、原因である僕が遠くの安全な場所で待機しているだけなのが許せなかった。僕は奥歯をガタガタ鳴らしながら叫んだ。
もう、やめてくれぇ!!!
「かいむ…。」
「兄さん…。」
僕の叫び声は遠くで戦う二人にも届いているはずだったが、二人は手を止めようとはしなかった。
「どうして…どうしてなんだよぉ…。」
「多分…、かいむ君だけの問題じゃないからだと思う。」
僕の嘆きに恋さんが答えた。
「それは、どういう…。」
「少なくとも渥美は、かいむ君がお母さんと一緒に暮らすことに反対してるんじゃなくて、もっと根底にある信念を曲げないために戦っているんだと思う。…渥美は、この世界を守りたいんだと思う。」
恋さんの言葉に、昔、渥美さんと話した時のことを思い出した。渥美さんは「この世界を楽しんで欲しい」と言っていた。渥美さんは、ここはゲームだけれど、ただのゲームではない重要な場所だと語っていた。一方、母さんは、僕を連れ戻そうとしたときに、この世界を否定していた。渥美さんはこのゲームが必要とされていることを証明し、守りたいのだ。
"ギュッ"
不意に僕の服の裾が強く引っ張られたのに気づいて振り向いた。妹達が心配そうな目で立っていた。僕は、仮想世界の中であっても、この裾をひかれることが、この世界で僕を必要としていることなんだと思いたかった。

僕は目の前で繰り広げられる死闘そして僕の服をしっかりと握って離さない妹達を見て、不甲斐ない気持ちでいっぱいだった。
「かいむ、そんなに焦らないで。」
美良の言葉に、僕は「そうだね。」と力なく答えた。僕の頭の中で自分が昔に言った言葉が反芻した「守る」「大丈夫」「できる」「何とか成る」…、いざという時に自分がコレほどまでに無力だなんて…。
「今は見ているしかないよ。別に、それは恥ずかしいことじゃないと思う…。」
美良の言葉がずしりと心に響いた。本当にこれでいいのだろうか?これが僕の限界なのだろうか?妹達二人の近くにいるだけで彼女たちに安心を与えているのかもしれない。でも、それで十分なのだろうか?僕が、あの戦いの中に突っ込むことは蛮勇であったとしても、ここで呆然と立ち尽くす自分は努力不足ではないのだろうか?自分への問いかけで頭の中が占有される。問に対する答えは何もない。
「兄さん、行かないでください。」
「そうだよ…、かいむがいなくなったら私…、私達…。」
八月一日悠輝のことを思い出した。僕は、彼女たちをおいて死ぬわけには行かない。蛮勇は…いけない…。
「分かってる。ここにいるよ。」
それだけいって、僕は改めて目の前の闘いを見つめた。分かっていたことだったが、このゲームの中でさえも僕は主人公やメインキャラクターではない、ただのモブだった。

DreamPresenter なんて、それこそ夢だったんだ。

ページ上部に移動