DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 4 Chapter. 9.1

chapter 9.1: 旭川渥美(前編):

僕をおいて母さんと渥美さんの闘い激化する。もはや、僕では目で追うので精一杯というレベルだった。母さんが攻撃のたびに道や建物の一部を壊すので、二人の周りはまるで地震が起きた後のようにボロボロに荒れ果てていた。実際に目の前で建物が壊れていく様子をみている僕でさえ、どうしてこんなことになっているのかが分からず、白昼夢でも見ているようだった。

そして、闘いが激しくなるにつれて渥美さんは母さんに押され始めていた。今まで大雑把ながら華麗に母さんの攻撃を防いでいた渥美さんだったが、飛んでくる細かな瓦礫に対処できなくなっていた。体のあちこちで衣服が破れ、カスリ傷がついているのが遠目でも見て取れた。そして渥美さん劣勢を決定づけているのは、渥美さんが先程から右目を必死にこすり続けていることだった。バグを使えば使用者は何らかの身体的な異変が起こる。恋さんの話からすると、きっと渥美さんの右目には何らかの異変が起きているのだろう。もしかすると、既に視力を失っているのかもしれない。

僕は渥美さんが満身創痍な様子を見て、自分の無力さに唇を噛み締めた。どうしで、僕にはバグがないのか、バグさえあれば助けに行けるかも知れないのに…。そんな呪詛を繰り返していた。

しかし、僕は同時にある違和感を持っていた。先程から二人の闘いを見ていると、渥美さんが母さんを本気で攻撃していないように見えたのだ。母さんもこのことに気づいたのか休憩とばかりに攻撃の手を緩め渥美さんに話しかけた。
「流石に…、疲れてきたみたいね。」
「それは、お互い様だろう。」
二人は互いに息を整えながら、相手の様子を伺っていた。
「渥美、あなた、さっきから手を抜いてるでしょう?」
「手を抜く?まさか…。」
渥美さんは鼻で笑ったが、『バレたか』というのが顔に出ていた。母さんは、それが嘘だと分かると臨戦態勢を解きゆっくりと挑発するように渥美さんに言った。
「渥美は、理想主義者のお子ちゃまだからね。誰も傷つけず自分の思い通りにしたいと思っていたんでしょう。自分が傷つくという自己矛盾をはらんでいるのにも気づかずにね。」
母さんの言葉からは、渥美さんを馬鹿にした悪意がたっぷり込められていたが、渥美さんは、慣れた様子で言い返した。
「ははは、敵わないなぁ…。でも、そこまで気づいてくれているなら分かるだろう?俺は頑固だって。」
母さんは肩をすくめ渥美さんを見下した。
「知ってる。でも、私はそんな無駄な戦隊ごっこに付き合っているほど暇じゃないの。…はやいところやめにしたいの。この無駄な闘いも、あなたの無駄な理想主義も。」
言い終えると、母さんは渥美さんに向いていた視線をこちらに向けたかと思うと、突然手をかざしコンクリートの破片をこちらに飛ばしてきた。まさか、いきなり攻撃がこちらに飛んで来るとは思っていない僕らは、「うわぁぁぁぁぁ!!?」「きゃぁぁぁぁぁ!!!」と悲鳴をあげるだけだった。

母さんから僕らへの突然の攻撃に驚いた渥美さんは叫び、こちらに駆け出した。
それだけはっさせるかぁああああああ!!!
駆け出すだけでなく、渥美さんは飛んでくるコンクリートの破片をバグの力で手当たりしだい破裂させた。破裂させた破片はさらに細かくなって僕らにパラパラとあたった。
「…た、助かった。」
僕らは、思わずへたりこんで、危機を脱したことに安堵した。一方、恋さんは自分のことなどお構いなしというように駆けてくる渥美さんを心配そうに見ていた。

渥美さんは僕らの目の前まで駆けて、僕らの目の前で盾のように仁王立ちすると、恋さんに向けてボソッと呟いた。
「すまん。ちょっと無茶しちゃいそうだ。」
「もう、無茶してるよ!!馬鹿!…分かってるくせに…。」
「ごめん…。」
「頑張って…。」
恋さんは俯きながら渥美さんにそう言った。僕は、そんな二人に何も言えなかった。
「かいむ君。」
「は、はい!!」
「ちょっと、俺の力じゃ、お母さんを無傷でおさえるのは無理みたいだ。…ちょっと手荒な真似をしてもいいかな。」
渥美さんからのいきなりの問いかけに、僕は一瞬躊躇ったが、すぐにコクンと頷いた。
「…。…はい!よろしくお願いします!!」
「ありがとう。じゃあ、恋。行ってくる。」
「…行ってらっしゃい!!」
というわけだ杏子、すまんが本気で行かせてもらうぞ!!

渥美さんは、恋さんのエールをきっかけに威勢を取り戻し、母さんに向けて叫びながら空中に無数の水の針を作り、母さんに向かって勢い良く射た。針は母さんを射ぬいた…ように見えた。水の針は母さんの残像を通り過ぎた。母さんは尾形が先ほどそうしたようにいきなり姿を消したのだ。
「なっ!?」
「渥美?お喋りしてる暇があったのは貴方だけじゃないわよ。」
「ぐっ…どこだ!?」
渥美さんは右目をこすりながら辺りを見回す、僕らも一緒になってあたりを見回すが母さんの影も姿もなかった。渥美さんはギリッと歯ぎしりすると、見えない母さんに向けて叫んだ。
こっちだって本気だって言ったろうが!!
渥美さんは、僕、美良、舞華の周りに、京、尾形にしたようなドーム状の水の膜を作った。
「高密度に圧縮された水が高速で流れてるから触ったら怪我するぞ。そこにいたらとりあえずは安全だ。」
「渥美さん!!」
これで完全に蚊帳の外になった僕は思わず渥美さんに一緒に戦いたいと言おうとした。でも、言おうとしただけで僕の口からは何も出てこなかった。
「今は、今は我慢してくれ。」
「…かいむ、仕方ないよ。」
「そうですよ、兄さん。今は待ちましょう。」
渥美さんや、美良、舞華が僕の気持ちを察してか僕に慰めの言葉をかけた。仕方ない…?そうなのだろうか。正直、僕はほっとしている。でも逆に、ほっとしているからこそ、もう少し頑張らないといけないんじゃないのか?僕は自分がどうすれば誰の役に立てるのかも分からないまま、静かに水のドームの中で待つことになった。僕の顔がそれでもまだ不満そうに見えたのか、渥美さんは僕に続けて言った。
「人はそれぞれ、いるべき場所、なすべきことがあるんだ。今、君がすべきことはお母さんを傷つけることじゃないはずだ。」
「…はい、分かっています。」
渥美さんは、僕を見てニコリと笑って頷いた。

「ねぇ、渥美…。どうして僕は水の壁に入れてくれないの?」
恋さんは不安そうにしながら渥美さんに言った。見ると僕らに作られた水のドームが恋さんにはなかった。
"ゴッ"
「がっ…。」
「「「えっ?」」」
僕が恋さんの水のドームが作られていないことに気づくと同時に、渥美さんが恋さんのみぞおちに全力でアッパーを食らわせていた。僕、美良、舞華も何が起こったのか分からなかった。恋さんも、信じられないといったように目を見開いたまま膝を付き、苦しそうに悶えている。それに対して、渥美さんは立ったまま無言で恋さんを見つめていた。
「どうして…」
恋さんが渥美さんに問いかける。それに対して渥美さんは溜息をついていった。
「お前と恋を間違うわけがないだろう?早く返してくれ、透明のままじゃ可哀相だ。」
渥美さんはそう言うと、何も見えない中空を抱いた。
「ちょっと分り易すぎたか…。」
何のことか追いつけないまま、見ていると、目の前でさっきまで恋さんだったそれは、いつの間にか母さんに変わり、渥美さんが手を回している何もなかった空間から恋さんが現われた。遠くから噴水を見ると噴水近くの出来事が見えなかったように、母さんはそれで恋さんを隠し、逆に恋さんに化けていたのか。僕には、母さんが化けた恋さんは本物にしか見えなかったけれど、渥美さんはすぐにそれを見ぬいてしまった。
渥美さんは、本物の恋さんを取り戻すとすぐに彼女も水のバリアの中に入れた。
「あっ…」
恋さんは、何も言うことができないまま大人しく水のバリアの中に入った。
「大丈夫。」
渥美さんの言葉に恋さんは無言でコクリと頷いた。

渥美さんは、渥美さんと母さん以外が水のドームの中に入ったのを確認して、改めて母さんに向き直った。しかし、母さんはそれを見て哂った。
「あははははは。」
「何がおかしい。」
「おかしいと思わないの?本気でいくと言いながら、それでも対話での解決を望んでる。あなたは、いつでも矛盾してる。」
「…。」
「返す言葉もなくなった?事実だから?あなたは人を救いたいと自己犠牲に務めるけれど、その行動で本当に救われているのは誰なの?周りの人は本当にそれで幸せになったの?あなたは犠牲になったの?」
「…、いいたいことは、それだけか?」
「え?」
いいたいことは、それだけか!!
渥美さんは叫ぶと同時に水の針を作りそれを母さんに向かって撃ち放った。水の針は一本一本は縫針程度の大きさだったが、その数は50本近くあり、それらは全て母さんに向けて放たれていた。
「!!?」
まさか、そんな行動をとるとは思っていなかったのか、母さんは渥美さんの攻撃をモロにうけ吹っ飛んだ。針はすべて四肢に刺さり見るからに痛そうだ。正直、母さんが怪我をさせられているのは見ていて辛かった。
矛盾。そうだな。矛盾ばっかりだ。いつでも自分を情けなく思うよ。でも、俺はまだ諦めていない。諦めない限りは矛盾していない!!俺は、まだまだ諦めていない!!
渥美さんは、倒れ動けない母さんに向かって叫んだ。僕は、この攻撃で一気に渥美さんは形勢逆転した。母さんも、京も尾高も動けない。これでこの争いは終わる、そう思った。
「あはははは。」
「!?何がおかしい。」
「あははははははははははははははははははははははは!!!」
「杏子!!」
「あはははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
突然、母さんが壊れた人形のように笑い出した。

そして、笑うのをやめると母さんは冷たい目で渥美さんを見つめ、
「もういい、もう何も関係ない。デリートする。渥美、あなたの存在を消してあげる。」
それだけ言った。

母さんの言葉に一瞬時が止まった。

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