DreamPresenter

5

DreamPresenter Vol. 5 Chapter. 1.0

現実はつまらない。
そうして、僕は夢へと逃げるのだろうか?
夢の中にずっといたとしても、きっとつまらないのに…。
僕は…一体何がしたいのだろうか?

Dream Presenter side of Kaimu Tenjo Volume 5
chapter 1.0: 目覚め:

"ブーブーブー"
携帯電話が、やかましい音をたてて机の上を跳ねている。

僕は、携帯電話の背面ディスプレイで発信先の人物を確認し、そのよく知る相手からかかってきた電話を
とった。
「はい、もしもし。」
「あけおめ!ことよろ!ってなわけで、かいむ、今暇?」
電話をかけてきたのは、僕の高校の同級生で親友の雛菊零治(ひなぎくれいじ)だ。零治は、未だろくに動かない僕の脳味噌をシェイクするように、高いテンションで話しかけてきた。彼のこの高いテンションは、日常茶飯事、珍しくもないことなのだけれども、今日はこのテンションがかなりこたえた。僕は、思わず一歩ひいた声で答えてしまった。
「暇…だけど、そうじゃないというか…」
「どっちなんだよ!今からいつものメンバーで初詣に行くんだ。来るだろ?」

親友、雛菊零治からの初詣の誘い、いつもならばふたつ返事で応えるのだが、今はそんな気分じゃなかった。クリスマスから今までの空白の一週間が気になって、僕は思わず返事を飲み込んでしまった。
「…。」
「…?どうした?聞こえてるか?」
「あ、ごめん。ちょっと悪いけど今日は遠慮させてもらうよ。」
「へ…?ちょ、ちょっとどうした?何かあったのか?」
「いや、何も無いよ。なんというか体調が悪いんだよ。」
「熱か?見舞いに行こうか?」
「いや、熱とかじゃなくて…」
「ははーん。さては、お金が無いんだな、大丈夫だ!それなら俺に任せときな!」
「いや…ちが…」
「いいって、気にするな。気分転換したくてもできないっていうのは辛いからな。そこら辺のことは気にしなくていいから一緒に行こうぜ!大鳥大社に二時集合な!じゃあな。」
"ツーツーツー"
別に、お金に困っているわけではないんだけれど…。零治は早合点して電話を切ってしまった。電話をかけ直してキャンセルするのもいいけれど、そこまでするだけの理由はない。よく考えれば、自分一人で悩んでいても何も解決しないだろう。心強い友達に相談すれば解決するかもしれない。

僕は、自分勝手な親友に溜息をつくと同時に感謝しながら、上着を羽織って家を出た。

***

待ち合わせ時間の 5 分前に神社についたが、零治たちは、まだ着ていないようだった。僕は、神社の入口、鳥居の前に立っていた。しかし、よく考えると、零治は「大鳥大社に二時」としか言っていない。もしかすると、御神殿で待ち合わせかもしれない。それとも、人が多いせいで僕が見逃しているのかもしれない。

僕がそう思ったのも束の間、いきなりたくさんの参拝者がモーセの奇跡のように綺麗に2列に割れたかと思うと、一流有名人でも乗らないような黒い長いリムジンが人の間を割って入ってきた。参拝者は、迷惑そうに、もの珍しそうに、リムジンを見ていた。僕は、そのリムジンを見て思わず空を仰いで、手で顔を隠した。リムジンは僕の前で止まった。そして、リムジンの窓が開いたかと思うと、さっき電話で聞いたのと同じ声で、
「あけおめ!かいむ!」
雛菊零治が挨拶をしてきた。参拝者の視線が僕の方に突き刺さって痛かった。そんな僕の様子を不憫に思ったのか、零治の後ろから一人の女の子が申し訳なさそうに窓から顔をのぞかせた。
「ごめんね、かいむ。私たちは止めたんだけど…。」
彼女は、向島蘭(むこうじまらん)、零治の彼女だ。僕と零治と蘭は、幼なじみ同士で、高校でいつも行動を共にするグループのメンバーだ。
「うん、いいよ別に。これくらい慣れてるよ。うん。」
「慣れるっていうのも、どうかと思うけど…。あっ、あけましておめでとう。」
「あけましておめでとう。」
蘭に挨拶が終わると、今度は、美しい銀髪の気品にあふれた少女と優しい顔をした大人しそうな少年が窓から顔をのぞかせた。少女の名前は、リメルン・パル・瑠奈(ルナ)。見た目の通りのお嬢様で、このリムジンの持ち主でもある。少年の名前は、二階堂慎(にかいどうしん)。ちょっとしたことがきっかけで、ルナと知り合い、それから行動を共にしている。この二人は僕より1つ年下だが、高校で行動を共にするグループのメンバーだ。
「アケマシテオメデトウゴザイマス。かいむサン。」
「かいむさん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
丁寧な二人の挨拶に、僕もニコッと笑って返事をした。

「おし、スター気取りはここまでにして、早速初詣に行くか!」
ひと通り挨拶が済んだので、グループのリーダーである零治が指揮をした。
「あんたが言うんじゃないわよ!あんたが!!本当に無理を言ってすいませんでした。」
それに対して、女房役の蘭がツッコミを入れ、運転手に謝る。いつもと同じ雰囲気に、僕は、やっぱりここに来て良かったと安心した。

零治、蘭、慎、ルナがリムジンから降りると、僕らは早速、鳥居をくぐって初詣を始めた。神社の中は、祭りの空気でいっぱいだった。道沿いにびっしりで出店が並んでいた。ベビーカステラ、わたがし、くじびき、射的…、お面屋……。僕は、何か急に懐かしいものを感じていた。

射的…。
「かいむ。どうしたんだ?」
「え…いや…。」
僕は、そんなにお祭りに積極的に参加する方ではない。射的を自分からすすんでしたりとかはしなかったはずなんだけど…。でも、今日は妙に射的がしたい気分だった。
「零治、射的で勝負しないか?」
僕がそういうと、零治は驚いた様子で僕を見た。
「どうしたんだ?いきなり。」
「いや、何となく。」
「よっしゃ、いいぜ!返り討ちにしてくれるわ!!」
僕と零治は射的をした。結果は、僕が景品を3個、零治が1個で僕の勝ち。
「…くっそー。なんだよ、お前、射的そんなに上手かったのか?」
「いや、たまたまだよ。」
本気で悔しそうな零治を尻目に、僕は、とった景品を皆に分けると、ぼんやりと自分の手のひらを眺めた。何か今までの自分と違う、何かに操られたような感じがした。

この後も、僕らは、いろいろな出店を思い思いに回りながら、御神殿まで進んだ。僕の中の違和感は、深まるばかりで、御神殿についても消えなかった。賽銭箱に50円玉を投げて願い事をするその時、僕は、いつも願っている願い事をしようとして止めてしまった。
(早く家族一緒に暮らせますよう…。)
一番叶えたい願い事なのに、何か言いたくない。そんな感じがして、僕は願い事の途中で願い事を曖昧な表現に変えてしまった。
(また、みんな一緒に暮らせますように。)
みんなが何を指すかは分からなかったが、僕は何となく、そういうと安心した。
「蘭がもう少し、お淑やかになりますように。」
「何を、お願いしてるのよ!!」
「ははっ、そのままの意味だけど。」
「あんたねー!」
「ちょ、ちょっと二人とも止めなよ。こんなところで、後ろがつっかえてるよ。かいむさんは、もう願い事をしましたか?」
他のみんなは相変わらずなようだ。リーダーの零治と蘭の夫婦漫才が始まって、その時は僕か慎がまとめ役になる。
「うん、したよ。」
「ルナは、大丈夫?」
「…少し、気持ちワルイデスケド…大丈夫デス。」
「人ごみで酔っちゃったんだね。もう帰りましょうか?」
慎がルナの様子を見て、僕らにそう言いかける。
「よっしゃ、そうだな。帰るか!」
今までふざけていた零治が、さっと仕切り役に戻ると、僕らは神社をあとにした。

僕らが鳥居の前まで戻ってくると、あいかわらず黒いリムジンが場違いに停まっていた。来た時とは、頭の向きが変わっているところを見ると、一度どこかでユーターンして、こちらに戻ってきたのだろう。リムジンの前には、黒いスーツをきた運転手が立って、僕らを待っていた。
「皆様、お疲れさまでした。ルナお嬢様、お加減は大丈夫ですか。」
「はい、大丈夫デス。アリガトウ。」
「さぁ、お乗りになってください。天上様もどうぞ。」

ルナは、両親がネットワークインフラの会社の会長と秘書だと聞いている。年商数兆円の大会社で、世界各国のネットワークインフラを構築しているとかどうとか。僕らが、インターネットを使えるのは、彼女の両親のおかげらしい。そんな会社のお嬢様の友達だから、僕らも彼女と同じくVIPな扱いをけることが良くある。今日も、そんな感じだ。悪い気はしないけれど、ここまでされてしまうと気が引けてしまう。…といいながら、僕もありがたく高級リムジンに乗って帰るのだが。

***

「なぁ、かいむ。お前、クリスマスからずっと連絡取れなかったけど、どっか行ってたのか?」
車に乗って帰宅する途中、零治は僕にそう尋ねた。
「そのことで、ちょっと相談したいことがあるんだ。」
ちょうどいいタイミングと思い、僕は、改まって空白の一週間について話そうとした。僕が、急に改まった態度をとったので、何の気なしに聞いた零治も背筋を正すように椅子に座りなおした。
「覚えていないんだ。クリスマスから今日までの記憶が、すっぽり抜けているんだ。」
僕は、馬鹿にされないように、真剣に大真面目にそう言った。
「ちょ、ちょっと…。記憶喪失ってやつか?」
「分からない。気づいたら部屋のベッドで寝ていて、で、今日の電話がかかってきたんだ。」
「多重人格とか、夢遊病とか?」
蘭も僕の深刻な症状に思わず口を開いた。
「夢遊病はねーだろ。だって、一週間の間ずっと寝てられねーだろ。」
「あんまり確認はしていないけれど、一週間の間、他の誰かが家にいたような雰囲気はないんだよね。家の中のものが移動しているわけじゃないし。ずっと、ベッドの上にいたような感じ。」
「でも、おかしいだろ。寝てたとしても、一週間も寝て今日ピンピンしていられるはずがねー。」
「かいむさん。クリスマス以前の記憶はあるんですよね。」
「かいむサン。私ノ知ってるいい病院に行キマスカ?」
慎やルナも心配になって相談にのってくれた。何も問題解決はしていないものの、ひとりで悩むよりも皆に話してよかったように思う。
「一週間の記憶がないことだけが問題と思う。病院を教えてもらおうかな。今のところ、覚えていないこと以外に問題はないけど、問題があったら困るし…。」
「ワカリマシタ。マタ、病院の場所ヲ連絡シマス。」
「しっかし、不思議な話だよなー。なんか、小説やゲームの世界のような話だ。!まさか、ゲームの世界に迷いこんでたんじゃないか?」
「こら、零治!!かいむが、真剣に悩んでるのに茶化さないの!」
「いいよいいよ。相談にのってもらえただけでも、かなり楽になったし。」
僕は、そう言いながら、零治の言ったゲームの世界に、初詣の出店で感じたような懐かしさを感じた。どうかしている。もしかすると、この懐かしさも空白の一週間に関係しているのかもしれない。

「かいむ様。もうすぐ、かいむ様の家の前に着きますが、もうしばらくお話になられますか?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます。」
話しているうちに僕の家の前まで来たようだ。僕は、運転手に降りることを伝えると、リムジンから降り、改めて皆にお礼を言った。
「今日は、相談にのってくれてありがとう。」
「気にすんなって、何かあったら、またすぐに話してくれよ。」
「そうそう、私達にできることなら何でもするから。」
「僕も、家に帰ったら少しかいむさんの症状を調べてみます。」
「私モ、お父サンに聞イテミマス。今日ハ、楽シカッタデス。アリガトウゴザイマス。」
「じゃあな、かいむ。」
「またね。」
「さようなら。」
「うん、またね。おやすみ。」
挨拶を終えるとリムジンは、出発していった。僕は、リムジンが見えなくなるまで、手を振っていた。なぜか、今日皆と会うことや遊ぶことでさえも酷く懐かしく感じていた。

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