DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 5 Chapter. 3.0

chapter 3.0: 優しい嘘:

この前始まったと思った三学期は瞬く間に過ぎて、いつのまにか春休みになっていた。僕らは大学受験が近付いていることもあって、毎日毎日勉強漬けだった。このため、ただでさえ過ぎるのが早いと言われる1〜3月が、さらに高速に過ぎるように感じられた。

高校 2 年生から 3 年生に変わる春休みといえば、いよいよ受験勉強をしようという空気が高まってきて、勉強していないと不安になる時期なのだが、僕らのグループにそんな空気を全く意に介していないようだった。受験本番になるからこそ、春休みは自由に遊べる高校最後の長期休暇だということらしい。

午前九時、僕が家でぼーっとしながら参考書を眺めていると、インターホンと一緒に家の外から聞き慣れた声が聞こえてきた。
"ピンポーン"
「かいむ、花見に行こうぜ!」
僕は、窓を空けて玄関を見た。やっぱり零治だ。 僕は窓から顔を出して玄関前にいる零治に尋ねた。
「なんだよいきなり?いつ?」
「今日!」
「はぁ!?今日!?というか、まだ 3 月だぞ?」
「ルナの持っている島に、今、桜が満開になる島があるんだってさ。」
持っている島って…と言いかけたが、日頃の普通でない行動を思い出して口をつぐんだ。僕は 3 秒ほど悩んだ後、身に入らない勉強より気晴らしの花見に行くことを選んだ。
「何持っていけばいい?」
「財布と携帯があればいいよ。ルナの家に集合!」
「分かった。」
僕は、参考書を閉じて、財布と携帯だけを持ってルナの家に向かった。

ルナの家の門の前にくると、既にいつものメンバーが集まっていた。僕が着たと同時に、蘭は、いきなり申し訳なさそうに僕に言った。
「ごめんね、かいむ。また、零治がいきなり思いついて。」
「いきなりじゃねーよ。前から花見に行きたいっていう話を慎とルナとしてて、それがたまたま今日になったってだけだよ。」
「はい、今日行くところは私のオススメの場所デス。」
いまいち話が繋がっていないのは、いつも通りだ。僕は、申し訳そうな顔をする蘭にニコッと笑顔を返した。
「いやいや、どうせ家にいてぼーっとしてただけだったし、気晴らしになってよかったよ。でもルナ、島に行くって話だけど、どうやっていくの?」
「はい、皆様、コチラニドウゾ。」
そう言って、ルナは門を空けて僕らを家の中に招き入れた。どうやっていくのと聞いたのに家に招き入れることに、僕は嫌な予感がした。家の中と言っても、ルナの家は、中世の城のような大豪邸だ。門を開けると学校のグラウンド以上の大きな庭が広がっている。
「コッチデス。」
どうなるか分からないまま、僕らはルナの案内通り庭を歩いくと…。
「「「!!!?」」」
家の庭の一角に一台のヘリコプターが停められていた。しかも、小型よりも大きな中型ヘリコプターだ。
「今日は、あのヘリコプターに乗ッテ行キマス。」
当たり前の事のように、そう言うルナに、零治・蘭・僕は、思わず圧倒されてしまった。
「す、すげー!!」
「相変わらず、スケールが大きいわね…。」
「まぁ、ルナだからね。」
僕らは、ルナにあってもう何度目かの衝撃に、思わず苦笑しながら、目の前のヘリコプターを眺めていた。
「ドウシマシタ?」
僕らが突っ立ているのを見て、ルナは何が起こったのか分からないというようだった。そんな、ルナに慎がフォローを入れる。
「いや、皆ヘリコプターをこんなに間近で見たことがないから驚いているんだよ。」
「!?そうなんですか。喜ンデモラエマスカ?」
「おう!最高だぜ、ルナ!」
「それは、ヨカッタデス!」
そんなやりとりをしていると、ヘリコプターの操縦席から、初詣のリムジンの運転手が降りてきて、
「用意が整いました。いつでも出発できます。」
と言った。いやいや、あなたも器用すぎるでしょう。僕は、そう突っ込みたいのをおさえ、案内されるがままにヘリコプターに乗り込んだ。程なくして、僕らは、ルナの持っている無人島へと出発した。

***

ヘリコプターに乗ること 1 時間、海の上にぽっかり浮いた小さな丸い無人島があった。上空から見て、緑の木々の間に見えるピンクがある。あれが桜だろう。ヘリコプターは、徐々に高度を落とし、島の端にあるグラウンドのような何も無い砂地に降り立った。
「はーるばる来たぜ!!無人島ぅー♪」
初めてのヘリコプター搭乗に気を良くしたのか、零治はいつもより 2 倍高いテンションで上機嫌に歌った。
「なんで、あんたそんなに元気なのよ。」
「いやいや、無人島って、男のロマンだぜ。なぁ、慎。」
「まぁ、そうだね。無人島っていってもかなり整備されているけど。」
「慎、整備されいないほうが、イインデスカ?」
「いや、そういうわけじゃないよ。うん、むしろ整備されていたほうが助かる。」
「???」
「と、とにかく、花見の場所に移ろうか。」
「はい!コチラデス。」
ルナは、ボーボーと生える草木の間にぽつんとある獣道を指差した。 僕らは、ヘリコプターからルナの持ってきたお花見セットを手に持つと、ルナに案内されるままに獣道を進んだ。その獣道をしばらく歩いていると、今度はまた少しひらけた芝地があった。そして、そこは、
「わー、綺麗。」
四方が桜の木々で取り囲まれた桜のドームの中だった。
「これは、すげーな…。」
無人島にわざわざ芝生を養生し、桜の木をドーム状に並べて宴会場を作るというのは、金持ちの道楽なんじゃないかと思えるが、実際にできたものを見るとその凄さに圧倒されてしまう。ヘリコプターに続いて、またも圧倒されてしまった僕らを尻目に、さも当たり前というような様子で、ルナはマイペースに芝生の上に座ってブルーシートを引き始めた。
「さぁ、お花見を始メマショウ。」
にこにこ顔のルナに、僕らは、やっぱり庶民とお金持ちは、どこか感覚が違うんだなーと思った。

花見と言っても結局は座談会だ。しばらく、ドーム状の桜を綺麗だねと眺めた後、僕らは、ルナ家のお抱えシェフが作ったお弁当を食べたながらいつもと同じ会話を始めた。
「しっかし、もう 1 年たっちゃったなー。」
「なに、おっさん臭いこといってるの。」
「いやいや、そう思わね?高校に入ったかと思ったら、もう最上級生だぜ?」
「僕もそう思いますよ。来年度から、後輩が入ってきますからね。」
「私も先輩デス!」
「それに、今年は受験だしね…。」
僕は、自分でそう言っておいて、その現実に凹んだ。
「で、かいむはどこを受ける予定なんだ?三学期の始めは調子良かったのに、後半は微妙になっちゃったけどさ。」
「いやいや、零治、実力テストだけ調子が良くて、元に戻っただけだよ。」
「でも、かいむだったら今からでも全然上を狙えるよ。」
「流石に、零治や蘭のところまでは届かないよ。うん。」
「諦めたらそこで試合シュウリョウデスヨ。」
「!?」
「あはは、ルナは最近、日本のサブカルにハマっているみたいなんだよ。」
「まだあわてるような時間ジャナイ。」
「すげーな、ルナ。ちゃんと文脈に沿って台詞を選べてるじゃない。」
「なんか、逆に心配になるね。ルナちゃんの将来に。」
「大丈夫デス。問題ナイデス。」
「ほんと、心配だね…。」

それからも長々と談笑は続いた。将来のことから、政治のこと、最近あった瑣末なことに到るまで、いろんなジャンルの話をした。そして、気づいたころには、もう日も暮れ始めていた。
「そろそろお開きの時間ですかね。」
時計を眺めながら慎がそう言った。
「あと、どのくらいイマスカ?」
「30分くらいかな。」
「分カリマシタ。では、帰りの手配をシテキマス。」
「あ!僕も行くよ。かいむさん、蘭さんはもうちょっとゆっくりしててください。」
「うん、ありがとう。」
そう言うと、ルナと慎は二人でもときた獣道を歩いて行った。慎が、零治について何も言わなかったのは、さっきから、零治がブルーシートに大の字で寝転がって眠りこけているからだ。

零治は、このグループの仕切り役なので、イベント中にこうやって眠ってしまうというのは珍しかった。
「零治がイベント途中で眠っちゃうなんて珍しいね。疲れてるの?」
僕は、蘭にそう尋ねた。
「うん、最近、頑張ってるみたいだから。いや、前からずっと頑張ってはいるけどね。」
蘭はそう答えると、苦笑いをした。きっと、零治のことだから、遊んでいるように見えて影で、勉強を必死にしているんだろうなぁと思う。蘭が言っても、それを止めないような性格をしているからな…。
「そうなんだ。…零治ってさ、ほんとスゴイよね。なんていうか、努力する天才って感じで、頭がイイだけでも、努力しただけでも勝てる気がしない。」
僕は、素直にそう言った。僕の言葉に、蘭はまたも困った風な顔をした。
「…。凄いはずなんだけどね。本人が満足しないんだよね…。」
「だろうね。」
「かいむ。」
「ん?どうしたの?」
「私達さ、ずっとこういう風に、友達でいられるよね?」
「なに?いきなり。…、まぁ、大学になったら今より会える機会える機会は減っちゃうだろうけど、友達でいることには変りないよ。」
蘭からのイキナリの感傷的な質問に、僕は驚いて蘭の顔を見た。蘭は、やっぱり困った顔をしていた。
「…ありがとね。」
「だから、どうしたの?」
「いや、なんか急に感傷に浸っちゃってさ。ほら、高校時代いろいろあったじゃない。うん、私のせいでさいろいろと。」
「あったね。でも、いいじゃない。蘭のせいなんかじゃないでしょ。」
「いや、私のせいだよ。私があの時はっきりしておけば、私達もっとずっと一緒に…。」
蘭のこの言葉に不意に嫌な空気が、僕の周りにまとわりついてきたので、僕は思わず大きな声を出てしまった。
「しつこいなぁ。気にしてないし、ずっと友達だよ。そうでしょ!?」
「…うん、ごめん。」
「…こっちこそ、ごめん。」
しばらくの静寂。なんとも言えない気まずい空気になって、居心地が悪い。そんな雰囲気に耐えられなくなったのか、そうしてしまったことに気まずさを感じたのか、今までと反対に蘭は無理矢理明るく振る舞い始めた。
「あはは、ごめんね!さっきのなしなし、気にしないで!」
僕は、そんな蘭の様子を見て、寧ろ寂しくなった。
「蘭。僕は、本当に友達だと思ってるよ。」
「かいむ。ありがとう。」
「信じられないなら、もっと沢山遊ぶし、話そうよ。きっと疑心暗鬼になっているだけだよ。」
「うん、そうだね。」
この僕と蘭の一連のやりとり自体が、僕と蘭を引き離しているということを強調しているのかもしれない。それに、僕が蘭に対して、後ろめたい感情をまだ持っていて、それを密かに満たそうという気もあるのかもしれない。でも、今の僕は、こうすることでしか、僕と蘭、そして零治を繋ぎ止める方法を思いつかなかった。

「あ、ルナと慎が帰ってきたみたい。」
蘭のこの言葉で、さっきからのおかしな空気はようやく断ち切られた。しかし、この時、僕は、何か勿体無さを感じると同時に、またその勿体なさを感じてしまったことに罪悪感を感じた。
「みんなぁ、もう帰るよ。帰る支度を始めてー。」
慎の言葉で僕らは帰る準備を始めた。零治が寝ぼけているのか、ヘリコプターに乗らずにどこかへ歩いて帰ろうとしていたのが面白かった。

帰りのヘリコプターでは、僕も蘭も行きにもまして活発に会話しようとしていたように思う。互いに、友だちでいようということに必死だったのかもしれない。でも、話せば話すほどに、なぜかそれは空転して、僕達が友達でないということを証明しているように思えた。

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