DreamPresenter

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DreamPresenter Vol. 5 Chapter. 4.0

chapter 4.0: 過去を見つめる瞳:

短い春休みを経て、僕は高校3年生になった。思えば、あっという間の高校生活だった。母さんの生活が苦しくなり、おばに預けられた僕は、高校のはじめに内緒で母さんに会いに行った。でも、結果は、母さんと妹が蒸発しているという最悪の結果だった。それから、僕は、アルバイトをしながら、もともと僕らが住んでいた家に一人暮らしを始めた。最初は、それだけで、母さんと一緒に暮らせるようになるのではないかと思ったけれど、そう簡単にはいかなかった。そして、僕は高校3年生になった。何も得られないまま、寧ろ、何かを失いながら…。

高校3年生と2年生で特に変わったこともなく、僕は、3年生になっても淡々と毎日をこなしていた。3年になってすぐは、先生に、「今年で高校生活は最後だとか、受験までラストスパートだ」とか言われていたが、3週間も経つと、特に代わり映えのしない毎日に戻っていた。

ただ、春休みを通して僕の中で変化したことが一つあった。それは、僕も零治や蘭と同じ大学に進学しようと思ったことだ。進路を変えた理由は、2つある。1つは、母さん達に会えなくても、自分で立派に生きていかなくてはいけないという感覚が、強くなったことだ。そして、もう1つは、このまま僕だけが他の大学に行ってしまった時、幼馴染の零治・蘭と僕、3人の関係が一気に崩れてしまうのではないかと怖くなったことだ。そんなことあるわけないと笑いたいところだが、花見の時の蘭の悲しげな顔を思い出すと、「やれるだけのことはやっておこう。」という気になった。

そういうわけで、僕は春休みから今まで以上に根を詰めて勉強するようになった。2年生3学期の実力テストの時はたまたま零治と張り合えたが、普段の僕は零治・蘭と学力の面で大きく溝を開けられている。その差を埋めるためには、勉強家の零治と同じかそれ以上の勉強をしないといけない。もともと勉強をしていない方ではなかったが、零治達と同じ所に行こうと考えると並の頑張りじゃ足りない。僕は、睡眠時間を削って勉強をするようになった。そのおかげか、高校3年生1学期の実力テストは、100位以内に入ることができた。

しかし、そんな無茶がずっと続くはずもなく、急に無理をしたせいで、僕は学校で廊下を歩いていた時に倒れてしまった。急に目眩がして、僕の視界はブラックアウトした。

気がつくと、保健室のベッドに僕は寝ていた。学生の話す声が遠くに聞こえた。誰かが、保健室まで運んでくれたんだろう。自分が張り切って勉強したのが原因で、他人に迷惑をかけてしまったことを思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

僕は、若干のダルさを感じながら体を起こした。誰かいないのか、保健室内を見回すと、保健室の角で保健室の花瓶の花を愛でる蘭の姿があった。

"チキチキチキ"

不意に懐かしい感じがして、途端また意識が飛びかけた。頭でも打ったのだろうか、僕は、グッと力を入れて何とかとどまった。そこで、蘭が起きている僕に気づいて駆け寄ってきた。
「かいむ!!良かった。心配したよ。大丈夫だった?」
「うん、ごめん。心配かけて。」
「ほんとだよー。なんか、廊下で倒れたみたいじゃない。
目の前でイキナリ人が倒れて驚いたって、運んできてくれた人が言ってたよ。」
「…あぁ、本当に申し訳ない。今は?」
「もう、放課後だよ。」
蘭がそう言った瞬間、また、僕の脳の回路がショートしたような感じがした。

"チキチキチキ"

保健室のベッドで倒れている僕と、それを介抱している…蘭。いつかどこかで、こんなことがあったような。また、意識が飛びそうになる。そして、

"ギチギチギチギチ"

突然、僕の頭が締め付けられるように痛んだ。
「っつ!!?」
急な痛みに僕は思わず頭を抑えた。
「大丈夫!?」
顔を歪ませた僕を見て、蘭は身を乗り出した。痛みはすぐに収まって、結果的に僕と蘭が顔を付き合わせる形になった。僕は、恥ずかしさのあまり思わず目を背けた。
「だ、大丈夫だよ。」
「あ!ごめん…!」
蘭も、僕との距離が近いのに気がついたのか、一度身を引いた。
「大丈夫?」
「いや、ちょっと頭が痛くなっただけ、もう大丈夫。」
「…。最近無理してたから?」
「え?」
「いや、テストの成績がまた良かったりしたから、頑張って勉強をしてるのかと思って。」
なるべく勉強をしていることは、二人に悟られないようにしようと思っていたが、実際に自分の頑張りを気づいてもらえていると思うと、それはそれで嬉しかった。
「まぁ、ちょっとね。」
「なんか…ごめんね。」
「なんで謝るの?」
「かいむが、私達と同じ大学を受けようと思ってるの知ってる。」
「!なんで?」
「零治が、進路希望調査で、かいむが私達と同じ大学を書いてたのを見たって…。」
「そっか…。」
「私のせいかなと思って、お花見の時にいろいろかいむに言っちゃったから…。」
「いやいや、そんなことないよ。なんていうかさ、僕も挑戦するだけならタダだから、零治と蘭の志望大学を目指そうと思って。」
僕は、そう言って気丈に振舞ったが、蘭は尚も申し訳なさそうな顔をしていた。
「無理してない?」
「僕がしたいからしてるんだよ。」
「ならいいんだけど。」
「蘭も気にしないほうがいいよ。」
「ごめん。」
「また、謝ってる。」
「あはは。そうだね。」
蘭は、笑っていたがまだどこか寂しそうな顔をしていた。その理由は分かっていた。蘭は、僕らがもう昔の3人の関係に戻れないんじゃないか、そして、それが自分のせいなのではないかと思っているのだ。そんなことはないと言っても、僕が蘭に気を使っていると思われてしまう。さらに、そういう気を使ってしまうので、実際にギクシャクしてしまうという悪循環だ。僕らは、それからしばらくギクシャクとした会話を続けた。

保険医の先生が帰ってきたので、僕達は先生にお礼を言って保健室を出た。
「よぉ!生きてたか!」
保健室を出ると零治が廊下に立っていた。零治も蘭と交代で毎休み時間に僕の様子を見に来てくれていたらしい。
「あぁ、心配かけてごめん。」
「いやいや、ホントだよ。かよわい女の子じゃないんだからw」
「あはは、そうだね。気をつけるよ。」
「そんじゃ、帰るか?」
零治の号令で、またいつものように一緒に帰る僕達、零治も蘭も僕のためにわざわざ遅くまで残ってくれているんだ。ありがたい。
「そうね。あっ!そうだ!スタミナつける意味で買い食いして帰らない?最近話題の肉屋さんがあるの。焼き鳥とかコロッケが美味しいんだって。」
珍しく、蘭が買い食いを誘ってきた。いつもは、零治が買い食いを誘って、蘭がそれをたしなめるのだが。
「あー、いーけないんだー。買い食いなんてー。」
零治も、蘭の珍しい提案に、日頃の仕返しをするべく、蘭につっかかった。
「たまにはいいじゃない。かいむの快気祝いだよ!でも、残念だなー。零治は参加しないみたい。かいむは来てくれるよね?」
零治のつっかかりを綺麗にスルーし、蘭は僕にそう言った。
「うん、じゃあ行こうか!」
僕は、空気を読んで、蘭のフリに乗る。
「おいおいおい、もっと愛のある返しをしてくれよー。」
「はいはい。じゃー、今日は私に続いてー!美味しいお肉屋さんへご案内ー。」
「いやっほぉー!!食うぜー!かいむ、大食い勝負しようぜ!」
「いやいや、流石にそれは…。」
「やめときなさいって、どーせ無理に食べ過ぎて後で気持ち悪くなるんだから。」
「はいはい。でも、俺の舌を満足させられる肉屋じゃないと嫌だぞー。」
「ルナちゃんのところで食べる料理には負けるけど、美味しいと評判だからね。」
「あれは、チートだからな…。」
そういって、僕達は、いつもどおり笑いながら下校した。

ただ、僕は、それでも何か違和感を感じていた。何も、変わっていないはずなのに、どうしてこんなにも違和感を感じてしまうのだろう。どうしてこんなに楽しいのに、素直に楽しいと思えないのだろう。僕達は、もう昔のようには、戻れないかもしれない。だけど、それならば、だからこそ、また新しく3人の関係をやり直して、楽しく付き合いたいと思う。それなのに…。どうして…。

僕達は、もう、今は目の前に存在しない、過去の美化された何かに囚われて、手にい入るはずのないそれを探し続けているのかもしれない。

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